2006年12月13日(水)「しんぶん赤旗」

オランダ総選挙

与党の福祉削減に審判

“政治の変化”期待

国民の願いを反映


 オランダで先月22日に行われた下院選挙(150議席)では、国営企業の民営化と社会福祉の削減を進めてきた与党・キリスト教民主勢力(CDA)と自由民主党(VVD)が国民の厳しい審判を受け議席を減らしました。政府との対決姿勢を鮮明に示せなかった最大野党の労働党も10議席減。選挙結果はオランダの新しい政治変化の方向を示唆するものとなりました。(ロッテルダム=中村美弥子 写真も)


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(写真)移民の中でどう活動するかを討議するオランダ社会党ロッテルダム支部移民グループの会議=1日

社会党躍進

 与党の後退と対照的に注目されたのがオランダ社会党です。バルケネンデ政権の民営化や社会保障切り捨てと対決し、改選前の八議席から二十五議席へと三倍化させたのです。

 「社会党は政治に新しい風を吹き込んでくれるはず」。ハーグで靴屋を営むライ・ジタンさん(37)は、選挙結果について興奮気味に話しました。国家公務員のヤン・クレムさん(50)も「政治に変化が訪れるのは民主主義の発展にとって望ましい」と期待を語りました。

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(写真)オランダ社会党のファンハイニンゲン書記長

 選挙で示された国民の期待について、社会党のハンス・ファンハイニンゲン書記長兼選挙対策責任者は「これまで通り国民の要求をくみ取り、国民のために働けば、十分期待には応えられる」と自信をみせます。

 今回の選挙で三選を果たした同党の若手下院議員の一人クリスタ・ファンフェルツェンさんは「この間、住民運動と密接に連携し、国政との橋渡し役を務めてきました。議会と住民運動との連携がさらに発展することを期待しています」と意気込みます。

 バルケネンデ首相率いるCDAとVVDの連立政権の二期五年は、緊縮財政のもとでの国営企業の民営化と社会保障の連続改悪が特徴でした。

 公共交通、空港、エネルギー、国民健康保険が民営化の対象に。社会保障分野では、障害労働保障の減額、退職年齢の六十五歳以上への引き上げ、歯科治療の一部有料化、家賃補助の減額・撤廃などが強行されました。

 「この間、貧富の格差は確実に広がった」とファンハイニンゲン書記長はいいます。「移民、高齢者、子どもといった社会的に弱い立場に置かれた人々が一番の被害者です」と指摘します。

改悪の連続

 労働分野も、「国際競争力」の強化を理由にした政府の圧力にさらされています。オランダでは、一九八二年に結ばれた「ワッセナー合意」のもと、労働時間の短縮とワークシェアリングが進み、これが失業率の低下を促してきました。

 労働者のたたかいはいま大きな節目を迎えています。

 国内最大の労組、オランダ労働連盟(FNV)下の公共サービス労組で活動するロット・ファンバアレンさんは「九六年に勝ち取った公務員の週三十六時間労働が延長されようとしている」と危機感を募らせます。ワークシェアリングが機能しなくなり、失業者が増加すると懸念。オランダ企業の海外移転による工場閉鎖で失業問題が深刻化していると説明します。

 社会党は選挙戦で、これらの問題を正面から取り上げました。これ以上の民営化に反対し、社会保障の改善を要求。軍事費を減らし、法人税減税計画を撤廃すれば財源はあると主張しました。

 総選挙から三週間。連立交渉の行方が大きな関心事となっています。

 与党のCDAと最大野党の労働党の両党を合わせても議会の過半数に達しません。CDAの連立相手だったVVDは分裂の危機にあり、政権入りは難しい情勢。こうしたなか、社会党が連立に参加するのかが注目されています。

 社会党は連立交渉に臨むにあたり、CDAに政策転換を求めています。これ以上の民営化の凍結、社会保障の改悪阻止、オランダ軍のアフガニスタンからの撤退などを約束するよう要求。これらが受け入れられない限り、政権入りはないという立場です。

 「選挙結果を受け、政府はこれまでの政策を継続できなくなりました。新政権が本当に国民のための政治を行うよう、常に圧力をかけていきたい」。ファンハイニンゲン書記長は意欲を燃やしています。


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弱者が声上げる

エラスムス大学

ハンス・ブロム助教授

 総選挙の結果は、政治家と国民との距離の広がりを縮めたいという国民の願いを反映しています。国民が社会的弱者の目線に立った「アイデンティティ政治」を求めていることを示しました。もともと地域色の強いオランダ政治の原点を想起させる結果です。

 社会党は国民との接点を重視し、国民の要求を公約に盛り込んだことで支持を広げました。社会党は労働党に肩を並べる政党へと成長する可能性をもっています。国民はこれまで以上に社会党に注目しています。社会党の大きな課題は、政治の変化をはっきりと国民に示すことです。


 オランダ社会党 一九七二年、毛沢東派の党として創立されましたが、九〇年代初めに毛沢東主義と決別。議会制民主主義を通じた社会主義を目指します。九四年の総選挙で二議席を得て国政に初参加。その後、五議席(九八年)、九議席(二〇〇二、三年)と議席を増やしてきました。今年三月の地方選挙で、議席数を百五十七から三百三十三に倍加。党員は五万一千人。ヤン・マリイニッセン党首。


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