2006年12月4日(月)「しんぶん赤旗」

経済時評

日本型の異常な「格差景気」


 大田弘子経済財政相は、十一月の「月例経済報告」の記者会見で、今回の景気拡大が五十八カ月となり、「いざなぎ景気(注1)を超えて、戦後最長記録を更新した」との政府見解を発表しました。同経財相は、一般紙の記者から「今回の景気の名前についてアイデアがあるか」と質問されたのにたいし、「ノーアイデアです。マスコミの方がいい名前をご提案くださるのを楽しみにしています」などと答えました。(内閣府のホームページによる)

「景気二極化」の矛盾が噴き出す

 すでに、一部の経済評論家からは、「実感なき景気」とか、「リストラ景気」「格差型景気」「蜃気楼(しんきろう)景気」「低体温景気」などなど、さまざまなアイデアが提案されています。

 いずれも、今回の景気拡大では、多国籍企業化した一握りの大企業が史上最高の利益をあげているのにたいし、労働者・国民にとっては、失業・雇用不安とワーキングプア、格差と貧困の拡大が長期化しているという特徴を表そうとしています。中小企業、農業、地域経済の停滞感もいちだんと深刻化しています。

 なかには、「いざなぎ景気」が古事記の「いざなぎ・いざなみ」に由来するところから、神話をさかのぼって「たかみむすひのかみ(高御産巣日神)景気」とか、小泉「構造改革」にちなんで「改革景気」などという人もいますが、これらは論外でしょう。

 私は、今回の「最長景気」が続けば続くほど、「景気の二極化」がひどくなり、格差が拡大し、矛盾がさまざまな分野、さまざまな形態で噴出しつつあるという特徴を一言で表現するために、かつてない日本型の異常な「格差景気」と名づけてみたいと思います。

「ルールなき資本主義」に「新自由主義」改革が加重された異常さ

 異常な「格差景気」の実態は、政府の統計からも明確に検証することができます。

 財務省の「法人企業統計」から試算すると、資本金十億円以上の巨大企業役員の報酬(給与と賞与)は、二〇〇一年度の千四百二十五万円から〇五年度には二千八百十一万円へ約二倍に激増しています。これにたいし、同統計で全法人企業の労働者(四千百五十八万人)の賃金は、三百七十五万円から三百五十二万円へ減少しています。資本金一千万円未満の零細企業労働者(六百九十六万人)の場合は、二百三十六万円から二百十九万円へ減少しています。

 景気の上昇期に、役員報酬は倍増しているのに、労働者の賃金は大幅に低下しているために、当然のことながら、格差は鋏(きょう)状(注、はさみのように先に行くほど広がった状態)に拡大しています(注2)。こうしたことは、日本の過去の景気回復期には例がないし、おそらく欧米諸国でもないでしょう。

 「新自由主義」経済路線のもとでは、アメリカやイギリスでも景気循環が二極化する傾向は、共通にみられる特徴です。しかし、日本の場合は、もともと「ルールなき資本主義」といわれるほど劣悪な労働条件のもとで、「新自由主義」改革による労働法制の改悪が強行されてきたために、サービス残業や偽装請負などの無法が横行し、格差と貧困がとりわけ急速に広がっています。まさに、日本型の「格差景気」としか言いようのない異常さです。

新たなたたかいの機は熟している

 今年一月の日本共産党の第二十四回大会の決議は、次のように述べています。

 「小泉内閣が、『構造改革』としてすすめてきた『新自由主義』の経済路線――大企業の利潤追求を最優先にし、規制緩和万能、市場原理主義、弱肉強食をすすめる経済路線は、日本経済と国民生活の矛盾をあらゆる分野で深刻にしている」。

 今回の「戦後最長景気」=「日本型の格差景気」が続くにつれて、大会決議の指摘は、ますます実証されています。たんに経済的な矛盾だけでなく、社会的なモラルの荒廃、教育の荒廃など、新しい不安が日本社会全体を覆いはじめています。

 かつての「いざなぎ景気」のときには、景気拡大が長期化するなかで、公害・環境破壊や「新しい貧困」が広がり、列島騒然となり、一九六七年には革新都政が誕生し、革新自治体の大波が怒とうのような勢いで全国に広がっていきました。

 今回の日本型の「格差景気」のもとでは、雇用や賃金などの労働の現場で、そして税金や年金、医療などの暮らしの現場で、さまざまな困難が幾重にも積み重なり、苦しみを深めています。この現実とどう向きあい、どうたたかうか。職場から、地域から、政治を変え、日本経済の異常なゆがみを変えるための機は熟しています。

(友寄英隆 論説委員会)

(注1)一九六五年十一月から七〇年七月までの五十七カ月つづいた景気拡大。

(注2)試算の詳細は、『経済』二〇〇七年一月号

グラフ

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