2006年12月3日(日)「しんぶん赤旗」

学校選択制

導入7年目の東京・品川区


 「学校を自由に選べる」という学校選択制を全国に広げる―。これは教育基本法改悪後に安倍首相が推進をねらう「教育再生」プランなるものの一つです。先行的にすすめ、すでに七年目に入った東京都品川区の学校選択制から明らかになることは、子どもたちへの“競争とふるいわけ”の現実です。(中東久直)

テストで学校に序列

 品川区は二〇〇〇年度に、全国に先駆けて学校選択制を区立小学校(四十校)に導入しました。区内を四つのブロックに分け、それぞれのブロックの中で小学校を自由に選択できるという制度です。中学校(十八校)には〇一年度から導入、区内どこからでも選択できるようになりました。

「人気・不人気」

 七年目に入り、通学区域外の学校に入学する人たちは年々増える傾向です。同区の学校選択制などについて調査してきた首都大学東京教育学研究室助手の深見匡さんによると、小学校の場合、通学区域外に入学した人たちは〇〇年度13・0%から〇六年度30・2%へと倍以上になっています。中学校では〇一年度17・3%から〇六年度32・1%に増加。その一方で、今年度、入学者ゼロの中学校も生まれました。

 深見さんは、「学校選択制により『集中する学校』と『流出する学校』の学校間格差が生じ、学校の『地位』の固定化を招いている」といいます。十一校のいわゆる「不人気校」と、十二校の「人気校」は、一部を除いてはっきりと固定化していることがわかります。(表参照)

 表にあるナンバー1の小学校は「不人気校」から「人気校」に変わりました。今年度、同区で初の「小中一貫校」になり、施設も「超豪華」と評判です。9番校は来年度、二校目の「小中一貫校」になる予定です。

 学校選択制を導入した三年後の〇三年四月から実施した学力テスト(「学力定着度調査」)は、学校選びをいっそう激しくしました。

「正答率」HPに

 学力テストは、国語と算数の二教科。最初の年は中学一年生が対象でしたが、二回目以降は小学六年生全員(毎年二月に実施)に変わりました。問題ごとの「習熟基準」「正答率」などが各小学校のホームページに掲載されています。

 深見さんは、〇三年以降の学力テストの結果と学校への生徒の集中度の関係を継続的に調べています。たとえば、〇六年度の「人気校」(上位十校)でみると、〇五年度の学力テストの平均点が最も高い学校が、60%以上を占めていることがわかりました。

 深見さんは、「実証的な研究はこれからですが、学校間の格差が生じ、学力テストの結果公表によって、上位十校の『集中する学校』と学力テストによる『点数が高い』上位の学校との間には、なんらかの関係があることは、はっきりしてきました。この傾向は、もっと強まる可能性は高い」と話しています。

競争で遊ぶ時間ない

ストレスが心配

 品川区内で、どの子も伸ばしたいと、塾を経営する男性(46)は、いいます。「小学校では四つのブロックの中で、“一位校”が決まってきています。地域の所得階層の違いが背景にありますね。同じマンションの子どもでも、通う学校は別々だったりして人間関係が狭くなり、地域が崩壊してきています」

 東京都や区独自の学力テストによる子どものストレスも心配しています。「小学校では、『学力向上』ということで、学習時間を増やし、中学校でも、テスト前に過去の問題をやらせているという話をききます。これでは学校の『予備校化』ですよ」

 今年度から開設した「小中一貫校」が、ますます「『いい学校』選び」に拍車をかけました。同区の「旗の台・中延子育て懇談会」副会長の男性(47)は、いいます。「選べることが、ほんとうにいい学校生活を送ることにつながるのか。地域の子育てネットワークこそ大切だと思います。選んだ学校の校長から、“校風ややり方が合わないなら、選ばなくていい”とまでいわれる例もあります。上からの強い指導力で一色になるのではないかと心配です」

 「小中一貫特区」なので今年度からは「小中一貫校」を含むすべての小中学校で「四―三―二年」の「小中一貫教育」のカリキュラムになっています。区独自の教育課程を作り、「道徳」や「学級活動」をなくして、「市民科」を新設し、英語に加えて、国語・算数の時間を週一時間増やすなどしました。

 区内のある小学校教師は、いいます。「毎日、午後四時くらいまで授業があります。とくに漢字などは中学のものが下の学年におりてきて、高学年は大変。遅れている子どもの勉強をみてやりたくても時間がありません。児童会の行事なども、昼休み、中休みにやっています。子どもたちは、学校でも、家でも遊ぶ時間がありません」

 区教育委員会は、経営上の困難な学校を「重点支援校」とし、区教委が管理職と一緒になり学校経営にあたるとします。しかし、「困難」の基準は明らかにしていません。また、学校に配分される教育予算とは別枠で、「特色・個性づくり」をめざす校長が計画するものに予算をだすこともしています。

業績で追い込む

 さきの教師は、「都や区独自の学力テストなどで、子どもを競争させ、ふるい分け、学校評価と個々の業績評価で、教師と学校を追い込んでいく。教師の増員など、十分な教育条件の整備をせずに、統制と管理を強めるというやり方です。品川で進行していることは、教育基本法が改悪されたらどうなるのか、先行的に示している例です」と話しています。


表

 「集中度指数」とは、その学校に実際入学した子どもの数を、国立・私立学校に入学した子どもを除く、その学校の通学区域に在籍する子どもの数で割ったもの。区立学校の「人気度」を反映する指標です。青色部分は、初年度の指数が0.9未満のいわゆる「不人気校」で、過去7年間に0.9未満の域内にとどまった部分。黄色は、初年度が1.1以上の「人気校」で、過去7年間に1.1以上の域内にとどまった部分を示します。


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