2006年10月29日(日)「しんぶん赤旗」

偽装請負 まん延する違法労働


発覚

大企業で相次ぎ導入

キヤノン、日立、松下…

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(写真)パネルを示して、ワーキングプア、偽装請負問題につ いて質問する市田忠義書記局長=13日、参院予算委

 キヤノン、日立、松下プラズマディスプレイ、トヨタ関連企業の光洋シーリングテクノ―。日本を代表すると自負する大企業の工場で、違法な「偽装請負」が労働者の勇気ある告発で発覚し、社会的な大問題になっています。

 これまで「偽装請負」を取り締まる姿勢をとってこなかった厚生労働省も動きだしました。労働基準局と職業安定局は九月四日、都道府県の労働局長あてに、製造業を中心とした「偽装請負」の防止・解消を図るため、監督・指導の強化を指示する通達を出し、取り組みを強調しました。

 十月三日には、大阪労働局が、請負業最大手を自称するクリスタルグループの「コラボレート」にたいして、偽装請負の問題で初となる事業停止命令を決定しました。

 「コラボレート」は、「松下プラズマディスプレイ」やトヨタ傘下の「光洋シーリングテクノ」などで偽装請負を繰り返していた会社です。

 「偽装請負」で働いている労働者は、正社員に仕事を教えるほどの技術力をもっていても、賃金は正社員の半分以下、ボーナス、昇給もほとんどないような待遇におかれています。

 こうした働かせ方が、低所得者層が増える「格差社会」の根本問題の一つです。

 安倍晋三首相も、十三日の参院予算委員会での市田忠義書記局長の質問に、「いわゆるワーキングプアといわれる人たちを前提に、いわばコストあるいは生産の現状が確立されているのであれば、それは大変な問題」「特定の企業で続発をしているということであれば異常」と答えました。

 製造業での請負は、会社の規模が大きいほど利用しています。五百人以上の従業員のいる会社では、59・9%の会社が請負を使っています。

 請負という形をとって、実際は派遣していたコラボレートの違法行為は、氷山の一角にすぎません。

背景

動機は「コスト削減」

「規制緩和」で拡大

 「偽装請負」がなぜ広がるのでしょうか?

 構内請負というかたちでの「偽装請負」は、一九八五年の労働者派遣法の制定以前からありました。しかし、これほどまでに、「偽装請負」がまん延するようになったのは、労働者派遣法の「規制緩和」がすすめられた九〇年代以降です。

 本来、労働者派遣は「一時的」「臨時」で「常用雇用の代替としない」ことを前提としていました。これに反して、二〇〇四年からは、製造業を含むほとんどの業種で派遣が可能になりました。 この時期、大企業はグローバル競争に勝つための「コスト削減」などとして、リストラと採用抑制をすすめ、正社員を切って、派遣、請負など非正規雇用に置き換えていきました。

 派遣業者は、こうした要求にこたえて「コスト削減できる」「社会保険の負担が軽くなる」「労働組合問題もない」と製造業に売り込み、中間搾取をすることで大きな利益を得ました。派遣業界は、九七年の売上高一兆三千三百億円から、二〇〇四年の二兆八千六百十五億円に急成長しました。

 派遣労働者を使う企業は、労働者派遣法で派遣期限をこえる労働者に、雇用を申し入れる義務や労働安全衛生法上の責任など、労働者保護のための責任があります。

 請負にはこのような責任が生じません。このため実態はメーカーが仕事を直接指揮する派遣労働であるのに、請負と偽装する。これが「偽装請負」です。

 「コスト削減」のために、生活保護水準以下の低賃金労働者をつくりだし、非正規雇用の使い捨てや「偽装請負」などの違法行為をしてきた大企業の責任は重大です。

 派遣業者の違法取り締まりは当然ですが、いま求められているのは、実際に労働者を使って利益をえている受け入れ企業の責任を明確にすることです。

手口

5パターンに“進化”

違法逃れの新手法も

 「請負」とは、下請けのように仕事を引き受け、独自の力で完成させ発注者に引き渡すものです。請け負った業者が、労働者を指揮、管理しなければなりません。

 仕事を発注した会社が、請負の労働者を指揮、管理するのは、職業安定法四四条に定められた「労働者供給事業の禁止」や、労働者派遣法に違反する「偽装請負」となります。

 しかし、実態は、請負を使っている工場のなかで、請負業者と工場の社員が一緒に、同じ作業をしているところがまん延しています。このような、一目でわかる違法が横行しています。

 東京労働局は、多発する偽装請負の類型を四つにまとめました。最近ではこれに加え第五のパターンがあるといいます。

 第一は、代表型です。これは、請負という形式を装いながら、実態は発注者が指揮、管理するものです。

 第二は、形式だけ責任者型です。これは、請負を指揮、管理すると違法になることを知っていながら、書類上、請負業者を責任者として違法をのがれようとするものです。

 第三は、使用者不明型です。社員と複数の請負や派遣労働者が混在するなかで、同じ作業をしていながら、どこに雇われているのか、誰が責任者かもわからなくなってしまうパターンです。

 第四は、一人請負型です。「一人親方」のように、一人で仕事を請け負っている形式にしてしまうものです。これは、請負業者の責任すら免れようとするもので、労災の対象ともなりません。しかし、実態が労働者であると認められれば、労災などを受ける権利があります。

 最近、増加しているという第五のパターンは、派遣会社からの出向という形をとるものです。出向という形式では、請負だと違法になる工場からの指揮命令が可能になります。

 松下プラズマディスプレイは、逆に派遣会社コラボレートに社員を出向させ、工場での指揮・命令をできるようにしました。違法のがれの手法ですが、これについて厚生労働省は、職業安定法が禁じている労働者供給事業にあたるとの判断で是正を求める方針です。

 旧労働省は、八六年の告示で、「法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであって」、目的が派遣にあるときは偽装請負であるとしています。

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告発

直接雇用へ広がるたたかい

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(写真)トヨタ自動車の工場で労働実態を調査する日本共産党調査団

 大企業が使い捨てにしてきた請負労働者の偽装請負の告発、直接雇用を求めるたたかいによって、正社員化への道が切り開かれています。

 「偽装請負」は実態が派遣労働なので、製造業で一年の派遣期限をこえれば、労働者派遣法にもとづいて、派遣先は労働者の直接雇用に努力し、直接雇用を申し込む義務があります。

 トヨタ自動車傘下の光洋シーリングテクノでは、請負労働者が正社員と混在して働く違法な偽装請負が十年以上続いていました。

 請負労働者は、労働条件の改善を求めて二〇〇四年九月に労組を結成し、偽装請負を告発。直接雇用を要求するたたかいによって、光洋シーリングテクノは、〇六年八月に、請負労働者の三分の一程度を期間工(六カ月)として直接雇用することを労組に表明しました。

 松下プラズマディスプレイでは、請負労働者の吉岡力さんが、偽装請負を告発。同社は直接雇用しましたが、半年間で解雇。吉岡さんは、期限のない直接雇用を求めて提訴しています。その一方、批判の高まりに松下電器は八月、請負労働者のうち二割を直接雇用する方針を明らかにしました。

 キヤノンでは、グループ会社での偽装請負にたいして厚生労働省の指導が入り、二万二千人の正社員とほぼ同程度いるといわれる請負・派遣社員のうち、「数百人をめどに正社員化する予定」です。十月には、キヤノンの宇都宮光学機器事業所で働く請負労働者が、実態は偽装請負だとして、キヤノンに直接雇用を申し入れています。

 こうした運動によって、全国の労働局や労働組合、弁護士などがおこなう労働相談窓口への相談も増加。直接雇用を求める派遣・請負労働者のたたかいも広がっています。


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