2006年10月22日(日)「しんぶん赤旗」

中2生のいじめ自殺 なぜ

作られた「ゼロ」報告

福岡・筑前


 福岡県筑前町の中学二年生の男子生徒(13)がいじめにあって自殺した事件から十日たちました。学校側は、依然として真相を明らかにしていません。いじめ自殺事件はなぜ起きたのか―。関係者の話を聞くと、いじめなどの問題を学級内で処理し、全体のものにしなかった学校の現状や「いじめゼロ」報告が、作られたものだった実態が浮かびあがってきました。(松浦賢三)

 筑前町は筑紫平野の北東にあり、田園地帯が広がる人口約三万人ののどかな町です。福岡市のベッドタウンとして最近、人口が急増。男子生徒が通っていた中学校は、そんな大都市近郊の生徒数四百五十人、教師二十五人の学校です。

 男子生徒が、「いじめられて、もういきていけない」と遺書を残して自殺したのは十一日。その四日後、男子生徒が一年生のとき担任教師による「いじめ」があったことが明らかになりました。

 学校側と両親とのやりとりで、担任の不適切な対応や発言が明らかになりました。男子生徒が早退してインターネットをしていたことについて、母親が担任に相談した内容を担任が同級生の前で暴露。以来、いじめが広がり、男子生徒は「学校へ行きたくない」と言い出したというのです。校長、担任は両親に事実を認め謝罪しました。

 町役場には連日、二百件を超える抗議電話が殺到。町最大のお祭りも中止になりました。

果たさぬ約束

 しかし、文部科学省が調査に入った十八日以降、学校側の態度が変わりました。担任のいじめと男子生徒の自殺の「因果関係は調査中」というのです。両親に「建設的な話し合い」を約束していたのに事実上、話し合いを拒否。両親は「なぜ約束を守らないのか。誠実な態度を示してほしい」と抗議しています。

 十五日の夜、三百五十人が集って開かれた保護者会で、学校の実態の一端が明らかになりました。保護者からの厳しい批判を受け、参加した約十五人の教師が一人ずつ発言。「くつを盗まれ、スカートがなくなる事件が起きたがクラス内で解決した」(教師)、「クラスで解決できることはクラスで解決している。問題が教頭にくるものがあっても、校長にはあげない」(教頭)。

 今年度から着任した男子生徒の担任は「いじめは、私の耳にまったく入りませんでした。だれか一人でも知らせてくれたら…」と泣いてわびたといいます。

 県教育委員会に報告されている同校のいじめ件数はここ数年ゼロ。しかし、起きていても「解決した」として報告されなかったのです。事件後、七―八件のいじめがあったことも明らかになりました。

物言わぬ教師

 同校の実情に詳しい関係者は「隣の学級に何があっても口出ししない。教師同士が率直に批判しあうことはほとんどない。学年委員会(各学年の担任で構成)も何かあると開くが、それもうとんじられていた。異常な実態ではないか」と指摘しています。

 いじめについては「撲滅」を、不登校については「五年間で前年比二割減」の数値目標を掲げる県教委は、各市町村教委に指導を強めてきました。一年半前に二町が合併した筑前町の六校(四小学校、二中学校)は、ここ数年間、「いじめゼロ」。関係者の中からは、「ゼロが当然のようになっていて、各学校からの報告にホッと安心して、疑問を挟むこともしなかった」という反省の声も。「いじめゼロ」は作られたものだったのです。

 「なぜ、息子は一人命を絶たなければならなかったのか、私たちは知りたいのです。それをすることが、二度と同じ悲劇を繰り返さないことを信じます」。男子生徒の両親の叫びともいえる訴えを、学校、行政が、そして父母、地域がどう受けとめるのか。学校現場でのいじめ問題を子どもの立場からでなく、文科省などの「数値目標」からしか見ない教育のあり方が根本から問われています。


競争で心が荒れて…

 いじめが起きる背景の一つに、「学力テストなどによる競争教育があるのではないか」という声もあります。県では「学力向上をめざす」として〇四年から県内全校で「学力実態テスト」(小五と中二、抽出)を行っています。筑前町では昨年、独自に小五、中二の全児童・生徒を参加させました。男子生徒が通った中学校では、学力の目標として「国語、数学、理科、英語は校内平均を二―三点引き上げ、県平均以上を目指す」などの数値目標を掲げてとりくみました。今年度は、昨年度が県平均点より十四点低かったことから、各教科ごとにいっそう細かな数値目標を設定しました。同校には、ほかに四月、夏、冬の三回にわたってテストも行われています。元教師は「一見、生徒に落ち着きがあるように見えても、テストなどによって実際の子どもたちの心は荒れていたのではないか」と話しています。


 「いじめ」と数値目標 文科相の諮問機関、中央教育審議会は、教育基本法の改定を求めた二〇〇三年三月の答申のさい、同法改定にもとづく教育振興基本計画について、「できる限り数値化するなど達成度の評価を容易に」するとし、いじめについて「五年間で半減」をあげました。この数値目標にもとづき、各地の教育委員会は、学校から報告を求めるなどしていますが、件数について実態からかけ離れているとの指摘があります。


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