2006年10月20日(金)「しんぶん赤旗」

マスメディア時評

流れに踏んばる覚悟はあるか


 ことしの新聞週間(十五日から二十一日まで)にあたって、日本新聞協会が募集した代表標語には、「あの記事がわたしを変えた未来を決めた」が選ばれています。読む人に生きる勇気を与える新聞記事の大切さをあらためて思い起こさせるものです。

 例年のように、新聞週間にあたって、各紙が社説を掲げ、特集を組みました。「事実の重みを伝えたい」(「朝日」)、「読者の『信頼』に勇気づけられる」(「読売」)、「未来に役立つ報道心がけて」(「毎日」)などです。十七日岡山市で開かれた新聞大会の決議は、「人々に確かな指針と展望を示(す)」ことを新聞の課題としてうたいあげました。

 問題は、日本の新聞の現実が、こうしたことばに恥じないものになっているのかどうかです。

どんな方向示す

 たとえばいま世界の最大関心事となっている北朝鮮の核実験について、新聞は正確で信頼できる情報を伝え、冷静な分析と事態打開への方向性を国民・読者に示しているか。

 国際社会が一致して、平和的・外交的に問題を解決しようとしていることに対し、各新聞もおおむね支持する姿勢を示していますが、全国紙の一部には国連安保理の決議に際し、アメリカが「有志国」を率いて強制的な「臨検」などに乗り出した場合、「日本は、集団的自衛権は『行使できない』とする政府の憲法解釈のままで、十分な活動ができるのか。きわめて疑問だ」(「読売」)といった、軍事的制裁をけしかける論調も見られます。「読売」は、北朝鮮に対抗する、日本の核武装についての議論さえ求めています。

 こうした主張は北朝鮮に対する制裁措置を非軍事の内容に限定し、平和的・外交的に事態の打開を求める国連安保理決議の立場さえないがしろにするものであり、国民・読者に解決方向を提示しているとはとてもいえません。

 国内の問題でも同じです。「読売」は新聞週間にあたっての同社の世論調査で、新聞報道への信頼度が十一年ぶりに九割台を回復したことを「とても勇気づけられる」(社説)と書き、その理由として、有識者が「昨年の衆院選の報道で、新聞はテレビと比べると比較的冷静な報道をした」と見ていることをあげています。

 ワイドショーの「刺客」騒ぎなど、テレビ報道に批判されるべき問題があるのは明白ですが、だからといって、新聞の選挙などでの政治報道が公平だった、問題がなかったと胸を張れるか。それはせいぜい比較の問題で、最近の自民党総裁選での大騒ぎや、自民・民主の「二大政党の対決」をあおる報道を見ても、新聞が真実を伝え、正しい判断材料を提供しているとはとてもいえないのは明らかです。

 新聞週間にあたっての東京新聞の社説は、「冷静さを失った国民とメディアがどうなるか。第二次大戦では、新聞が世論暴走に手を貸し、日本破局への少なくない責任を負ったのです」と警告しますが、新聞はこうした反省を生かしているのでしょうか。

権力監視の弱点

 日本の新聞、マスメディアにとって、何より致命的な弱点は、権力を監視する点での姿勢のあいまいさです。五年余りにわたった小泉政権に対し、多くの新聞、とくに全国紙と呼ばれる大新聞が小泉「改革」を支持しあおってきたこと、日本の針路にかかわる憲法の問題で、改憲に反対する全国紙がなくなっていることは、この欄でも批判してきました。

 安倍政権が発足してからでも、安倍首相が継承するとしている「構造改革」路線に対し、各全国紙はそれぞれ、「改革の流れを止めたり、逆流させたりすれば、ふたたび失速してデフレが頭をもたげる」(「朝日」)、「小泉改革で打ち出した政策目標を達成するための具体策の策定も、重要だ」(「読売」)、「諮問会議は改革成果で存在感示せ」(「日経」)などと、総翼賛状況を続けています。

 新聞週間にあたっての各全国紙の社説でも、権力の監視役としての新聞の役割を、正面から取り上げたものはありません。わずかに「毎日」社説が「新聞に課せられた使命」のひとつとして、「権力を監視し、埋もれている不正を明らかにする」ことをあげているぐらいです。

 こうした姿勢で、ほんとうに権力が作る流れに流されず、国民の立場で権力を監視し、権力に立ち向かう報道ができるのか。新聞が新聞週間にあたってのそれぞれの決意表明にふさわしい報道を貫いているかどうかは、日々の報道によって試されていることです。(宮坂一男)


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