2006年10月14日(土)「しんぶん赤旗」

主張

再チャレンジ

雇用の深刻なゆがみの是正を


 政府は景気の拡大期間が戦後最長の「いざなぎ」景気に並んだとしています。しかし、多くの国民に、そんな実感はありません。

 矛盾は政府の統計にも表れています。今回の「景気拡大」の五十七カ月間に、現金給与の総額が下がるという前代未聞の異常事態です。

 総額人件費を引き下げて利益の拡大を図る財界・大企業の雇用・賃金戦略と、それを強力に後押しした小泉内閣の「構造改革」路線がもたらした大きなゆがみです。

 安倍内閣が「再チャレンジ」を看板に掲げるなら、雇用を取り巻く深刻なゆがみを直視すべきです。

「価値観の変化」とは

 この五年間の給与所得の動きを見ると、年収三百万円以下の人が百八十五万人増えるとともに二千万円超の人も三万二千人増加し、中間の所得層は軒並み減少しました。小泉内閣の間に、多数の国民を低所得層に追いやる一方、少数の富裕層を生み出してきたという、貧困と格差拡大の実態が浮かび上がっています。

 その中で、働いても働いても生活保護水準を下回る暮らしから抜け出せない「ワーキングプア」が、深刻な社会問題となっています。

 安倍首相は、参院予算委でこの問題への認識をただした日本共産党の市田忠義書記局長に、将来の格差拡大につながるから注意が必要とのべつつ、「価値観の変化もある」と答弁しました。若者の価値観が変わったから、つまり若者が望んで不安定雇用が増加したという認識です。

 市田氏が指摘したように、好きで不安定雇用を選ぶ若者が大勢いるかのようにいうのは、信じがたい暴論です。政府の意識調査でも、不安定雇用の若者のほとんどが正社員となって働くことを望んでいます。

 若者を「ワーキングプア」の境遇に閉じ込めているのが、規制緩和によって急増した派遣や請負などの雇用形態です。とりわけ小泉内閣が、それまで禁止されていた製造現場への労働者派遣を解禁して以降の三年間で、製造業に労働者を派遣する事業所は十六倍の約八千に増えました。それと軌を一にして違法な「偽装請負」が広がっています。

 実態は派遣なのに請負であるかのように偽装するのは、派遣の場合には派遣先企業が負わなければならない使用者責任、一定期間の派遣継続後に生じる直接雇用の申し出義務を免れるためにほかなりません。

 しかも、こうした働かせ方によって、正社員を雇った場合の時給(福利厚生費を含む)三千五百円程度と比べ、製造企業は千円の人件費をカットできます。派遣会社は千五百円のもうけを得て、労働者にはたったの千円しか残らない仕組みです。

 あまりにもひどい“ピンはね”です。重大なのは、このような雇用の実態が少数の例外ではなく、日本経団連の役員企業をはじめ、広く製造業全体にまん延していることです。

規制緩和を元に戻せ

 日本を代表する大手製造企業が、使用者が当然負うべき責任と負担を逃れ、若者を「ワーキングプア」にしばりつけることによって、空前の利益を計上する―。これこそ弱肉強食の非人間的なゆがみです。

 市田氏の追及に、安倍首相も「違法行為にはしっかり対応する」と答えざるを得ませんでした。

 派遣会社の違法行為摘発はもちろん、派遣先企業に対しても厳格に対応し、直接雇用に切り替えるよう働きかけるのは当然です。「偽装請負」をはびこらせる原因となっている規制緩和は元に戻すべきです。


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