2006年10月6日(金)「しんぶん赤旗」

駐禁対策の添乗員費用

請負契約労働者に転嫁

飲料水販売のナック


 改正道路交通法(道交法)により六月一日から駐車禁止の取り締まりが強化され、対策として添乗員を同乗させる配送業者が増えています。その添乗員の人件費を請負契約で働く労働者に一方的に肩代わりさせようとしている企業があります。ダスキンの事業(清掃用品のレンタル)や飲料水の製造販売などで急成長するナック(本社東京、寺岡豊彦社長)です。(中村隆典)


常時同乗なら月約25万円に

 同社は六月に駐禁対策として派遣労働者を同乗させる方針を決め、かかった費用(一人当たり約二十五万円)は会社側が全額負担しました。ところが、一カ月後の七月初旬、突然、各支社あてに「駐禁対策の派遣同乗について」と題した通達を出してきたのです。

 通達には、七月末までは会社側が全額負担するが、八、九月は半額負担、十月以降は担当者の全額負担にすることを明記し、一片の理由も書かれていませんでした。

 担当者というのはボトルウオーター事業部門で働く請負契約労働者のことで、社内では「外務員」と呼ばれています。ミネラルウオーターを顧客に配達し、その代金を会社に納入するほか、新規顧客の開拓などの仕事に従事しています。一年契約更新の不安定な身分。ほとんどが二十代の若者で約百三十人います。

 「寝耳に水でした。添乗員の費用は会社側が負担するとしていたのに、突然の変更です。納得できないと異議を申し出ましたが、もう決まったことだと、まったく聞く耳をもちません。添乗員の人件費を負担すると、収入はなくなってしまう」と東京都内で働く外務員は憤ります。

 外務員の報酬は営業実績をもとに決められ、およそ月四十万―五十万円ほどです。「個人事業主」である彼らは、そこからガソリン代や車のリース料などの諸経費をはじめ、国民年金や国民健康保険など社会保険料も支出しています。諸経費だけで十四、五万円かかります。たとえ五十万円稼いでも、実収入は三十万円程度になります。

 その上、添乗員の人件費を負担することになれば、収入がなくなるのは目に見えています。


一方的に労働者へ通達

建交労 撤回求める

 六月末の支店長会議でのこと。六月度の添乗員の派遣料金が一人当たり二十五万円かかっていたことがわかり、会社幹部から「(負担が大きくて)やってられない」の声があがったといいます。外務員へ負担を肩代わりさせる通達が出されたのはその直後です。

「一時的な措置」

 通達が出されて以降、ほとんどの外務員が自己負担を避けるために添乗員の同乗をとりやめています。違法駐車で摘発されるケースも続発し、ひやひやしながらの仕事が続いています。取り締まりの厳しい地域を担当する外務員の場合、やむなく現在も添乗員の同乗を続けています。

 「違法駐車の罰金は一万五千円。外務員の会費でまかなわれている共済会から支出されています。免許停止になれば会社との請負契約は即解除されます。これから先、どうなるのかと不安でたまらない」と外務員の一人は話します。

 ナック側は「会社が当初負担したのはあくまでも一時的な経過措置であり、業務委託している外務員が負担するという本来の姿に戻すということです。外務員には添乗員の同乗を義務付けているわけではない。常時同乗させなくてもやっていけるという感触も得ている。過重な負担にはならない」としています。

 しかし、外務員の実態は労働者そのものです。外務員は個人事業主とは名ばかりで、正社員と同様に会社側の厳格な指揮監督に従い、管理されています。形式的には業務委託となっているものの、報酬は正社員なみの賃金水準です。

 運輸関係者も「企業にとって駐禁対策費の負担は大変だが、一労働者の請負契約労働者に全額負担させるなんて聞いたことがない。そんなことができるのかと驚いている」と話します。

 管理職を含め外務員への負担転嫁反対の声があがるなか、当初、十月から全額負担だったのが十一月に延期されました。しかし、会社側の既定方針は変わりません。

契約解除と同等

 請負契約労働者が中心となって結成した建交労(全日本建設交運一般労組)ナック分会の三宅暁委員長は「組合や労働者の意向を無視しての一方的な契約条件の切り下げは許されない」として撤回を求めています。会社側は団交に応じようとしていません。

 「独裁的な経営のもとで、これまでも何度となく一方的に契約条件を切り下げられ、泣かされてきました。今回の添乗員の人件費の負担転嫁は事実上、契約解除を突き付けられるに等しい」

 東京都労働委員会は今年六月、ナックの社長ら役員が労組結成を敵視し、組合員の脱退工作をくり返していたことに対して、不当労働行為を認定しました。請負契約労働者についても、労働組合法上の労働者性を認める画期的な勝利命令を出しました。しかし、ナックは現在も組合の存在を認めず、団体交渉を一切拒否しています。三宅委員長は「請負契約労働者への理不尽な負担転嫁は、組合員の排除がねらいではないか」と話しています。


 駐車違反の取り締まり強化 改正道交法によって運転者がいない車は、「放置車両」とみなされ、摘発されるようになりました。

 違反車両が見つかると、(1)デジタルカメラで証拠撮影(2)日時や場所などのデータを携帯端末へ登録(3)違反ステッカー(標章)を車に張ります。この間、約五分。ステッカーが張られるまでに運転者が戻らないと、違反が成立します。


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