2006年10月4日(水)「しんぶん赤旗」
イスラエル軍空爆で重油流出
出漁できず生活苦に
レバノンの傷跡
イスラエル軍のレバノン空爆は、国民の経済・生活基盤を徹底的に破壊しました。イスラエル軍はレバノン各地の発電所を標的にし、国民生活に大きな打撃を与えました。
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“有毒物質 がんの原因”
ベイルートから南方三十キロにあるジイエ火力発電所もその一つ。戦争開始直後の七月十三日と十五日の空爆で、発電所の燃料タンクが破壊されました。
一万五千トンもの重油が沿岸海域に流出し、美しい景観で知られたレバノン沿岸が汚染されました。重油はベイルートの港にも押し寄せ、付近の入り江や漁港に滞留し、漁師たちは漁に出ることもできず、日々の生活に大きなダメージを受けています。
強烈なにおい
ベイルート西部にある風光明美な観光地アルラウシャ地区の小さな入り江に入ると、アスファルトに使われるコールタールのような強烈なにおいが鼻をつきました。立っているだけで頭がくらくらするほどです。
海岸に下りてみると、白いはずの岩盤や漁船、防波堤が重油で黒く染まっていました。地中海に面した美しい入り江の風景が台無しです。入り江の奥では、作業員が油にまみれながら滞留した重油をくみ取る作業を行っていました。
トニー・シャモンさん(40)はこの地域で重油の除去作業を請け負っている業者です。「この地区を含む七つの地域で重油の除去作業を行っている。ここでは一週間前から開始した。重油を回収する特製のポンプを使って、これまでに百二十立方メートル、二十トンの重油をくみ出した」と作業の様子を語りました。
重油汚染で漁に出られないという漁師のマフムード・サリーさん(40)は、三人の子どもをもつ父親。海が汚染されて以降、漁に出られず、家族を養うお金も底をついている状態です。サリーさんを含む地域の漁師、百五十人も同じ被害を受けているといいます。
ゆっくりとした口調で話し始めたサリーさんでしたが、話が進むうちに熱がこもってきました。「見てくれ、油にまみれたおれの船を」。サリーさんは油で覆われた赤い色の自分の漁船を指さします。
2カ月かかる
「子どもたちの学校が始まったというのに、仕事はストップしたままだ。遠くで漁をしようと思っても、イスラエルの警備艇が警戒しているのでそれもできない。政府からの補償はないし、重油の除去作業も遅れている」といいます。
「漁に出られないだけじゃない。重油の有毒物質はがんの原因になるといわれている。だから子どもたちを親類の家に預けている。除去作業には少なくとも二カ月はかかるだろう。なんだってイスラエルはおれたちの海を汚し、生活の糧を奪おうとするんだ」とサリーさんはやり場のない怒りをぶつけます。
レバノンの英字紙デーリー・スター二十九日付によると、レバノンでは現在、クウェートやノルウェー、スペインなどが重油回収のための特殊船を派遣して除去作業を行い、国連開発計画(UNDP)が支援のために二十万ドルを拠出するなど、海外からの援助も受けています。
サラフ環境相は九月二十八日、「最優先課題は、漁の再開を許可することだ。そのための海面の油膜の除去には一週間かかるが、重油の完全除去にはもっと時間がかかる」と述べています。(ベイルート=松本眞志 写真も)