2006年9月23日(土)「しんぶん赤旗」

安倍氏の集団的自衛権論

「自然権だ」は成り立つか


 自民党総裁に選出された安倍晋三官房長官は、二十日の会見で党や政権運営の基本として「二十一世紀にふさわしい日本の国づくり」をあげ、憲法改悪の姿勢を示しました。その眼目にあげているのが集団的自衛権の行使を可能にすることです。

 安倍氏は集団的自衛権について、「国家の自然権だ」「権利を有していれば行使できるのは当然だ」と繰り返し、保有・行使が国家として自然のなりゆきであるかのような宣伝に努めています。この議論は果たして成り立つのでしょうか。

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 集団的自衛権は、自国と関係のある第三国が攻撃を受けた場合に、自国が攻撃を受けていないにもかかわらず第三国に対し反撃をする権利とされています。「自衛」ではなく「他衛」を目的として創設された権利です。

 現実に集団的自衛権が行使された例は、旧ソ連によるチェコスロバキアへの侵略(六八年)、アフガニスタン侵略(七九年)、アメリカによる北ベトナム爆撃(北爆)などベトナム侵略戦争やグレナダ侵略(八三年)などです。「自衛権」どころか、侵略と軍事同盟正当化の“権利”として使われてきたのです。安倍氏の「自然権論」によれば、これらの「侵略」も「自然権」の行使だったという主張にいきつきます。

 そもそも自衛を自然の権利ということはできても、「他衛」を、国家の自然権つまり“生まれながらにして当然備えている権利”などということはできません。

 集団的自衛権創設のいきさつをみてもそのことは明らかです。

 二つの世界大戦の惨禍を踏まえて国際社会が到達した最大の教訓の一つは、軍事同盟の対抗が結局世界を巻き込む大戦争を引き起こしたということでした。国連憲章はこの反省に立って、すべての国連加盟国の武力行使を禁ずるとともに、このルールを破るものに対しては全加盟国が一致して制裁を加えるという体制を作りました。これを集団安全保障体制といいます。

 これにたいし、国連憲章制定の最終段階になってアメリカが持ちこんだのが集団的自衛権でした。

 集団的自衛権は、複数の国が軍事力で対抗しあう軍事同盟の発想に立つもので、集団安全保障の対極をなしています。

 実際、安倍氏が集団的自衛権の行使で想定しているのも、公海上で米艦船を援護するとか、イラクなどの戦闘地域で同盟国軍を援護する、あるいは米軍と肩を並べて武力行使するなど、すべて軍事同盟としての武力行使にほかなりません。

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 国連憲章に集団的自衛権が明記されているとしても、それをそれぞれの国内でどう扱うかは各国の憲法で決めるべき問題です。国際紛争を解決する手段として武力の行使も武力による威嚇も許されない憲法のもとで、集団的自衛権の行使が許されないのは当然です。

 「権利を有していながら行使できないというのはおかしい」という安倍氏の主張も成り立ちません。

 結局安倍氏は、集団的自衛権を「自然権」などということでそれを行使するのが当然であるかのような世論をつくっていくことが狙いです。(中祖寅一)


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