2006年8月31日(木)「しんぶん赤旗」

海南島戦時性暴力被害訴訟

請求棄却、事実は認定

東京地裁


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(写真)判決後の記者会見で「非常に不公平な判決だ」と語 り、涙をぬぐう海南島戦時性暴力被害訴訟の原告 の一人、陳亜扁さん=30日、東京・司法記者クラブ

 戦時中、日本の植民地下にあった中国・海南島で旧日本軍に性暴力を受けた女性八人(うち二人はすでに死亡)が、日本政府に対し一人二千三百万円の損害賠償と謝罪を求めた「海南島戦時性暴力被害訴訟」の判決で、東京地裁の矢尾渉裁判長は三十日、原告の請求をいずれも棄却しました。原告側は控訴します。

 矢尾裁判長は請求を棄却した一方で、旧日本軍の兵士によって拉致、監禁された上、継続的に性的暴行を受けたとする原告らの主張を詳細に認定。被害時に受けた恐怖が今も消えず悪夢にうなされるなどのPTSD(心的外傷後ストレス障害)についても認めました。

 判決は、一九四七年に国家賠償法ができるまでは国に損害賠償を求めるための法律はなく、同法施行前に国家がおこなった行為について国は責任を取らなくてもよいとする法理を適用。また、旧日本軍による加害行為から同訴訟提訴までに二十年以上が経過し、一定期間の時が経過したことから原告の損害賠償請求権は消滅したと判断しました。

 弁護団の小野寺利孝団長代行は、判決が原告一人ひとりについて旧日本軍による加害と被害を具体的に事実として認めたことは「重要だ」としつつ、「明らかな違法、不法行為を認めながら国の法的責任を不当にも免責した」と批判しました。「日本政府は判決の事実認定を真摯(しんし)に受けとめ、原告らだけでなく、すべての被害者に謝罪と賠償をおこなうべきだ」とのべました。


原告会見 「憤りを感じる」

 いわゆる中国人「慰安婦」への賠償を求めた裁判で地裁段階では最後の判決となった「海南島戦時性暴力被害訴訟」。原告はいずれも中国・海南島で十代のときに拉致され、慰安所などで長期間にわたり性暴力を受け続けた少数民族の女性たちです。学生中心の支援組織「ハイナンNET」が結成されるなど、支援の輪が広がっていました。

 三十日も若者を中心に多数の原告支援者が裁判所に詰めかけ、傍聴席を埋めました。しかし、矢尾裁判長は、わずか数秒で請求棄却の主文を読み上げ、立ち去りました。傍聴席からは「ひどい」「理由をいいなさい」との声が起こりました。通訳から判決内容を聞かされた原告の陳亜扁さん(79)は、ぼうぜんとした表情でだれもいなくなった裁判官席を見つめました。

 陳さんは今年三月の法廷で、十四歳のときから四年にわたって性暴力を受けつづけたことを生々しく証言しました。戦後解放されましたが差別を受け、流産・死産を八回も繰り返しました。判決後の会見では涙を何度もぬぐいながら「憤りを感じる。これだけの事実を知りながら責任を認めない。日本人に良心はあるのかと問いたい」と訴えました。

 ハイナンNETに参加している男子学生(22)は「思い出すだけでもつらい体験をわざわざ日本に来て証言したにもかかわらず、その人を前にこのような判決を言い渡すなんて」と語りました。

 同日夜に開かれた報告会には約百人の支援者らが参加。陳さんは「真の日中友好のためには罪を認め、公正な判断をするべきです。悪い裁判の結果にひるまず、たたかい続けます。支えていってほしい」と訴えました。


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