2006年8月28日(月)「しんぶん赤旗」

米ハリケーン 被災から1年

帰還遅れ 政府に批判


 昨年八月二十九日、ハリケーン「カトリーナ」がニューオーリンズなど米南部を襲い、千数百人もの犠牲者を出しました。この災害では、州・市とともにブッシュ政権の対応にも批判が集中しました。被害から一年の諸相をみました。(ワシントン=鎌塚由美 写真も)


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“温暖化 関係隠すな”

 「カトリーナ」の被災から一年を前にした二十六日、“ブッシュ政権は地球温暖化とハリケーンの強大化の因果関係を隠すな”と市民が抗議行動を行いました。

 メリーランド州の米海洋大気局(NOAA)前に集まった市民は約百人。主催者の「気候緊急事態協議会」のマイク・ティドウェル事務局長は指摘します。

 「過去一年間でハリケーン強大化と地球温暖化の関係を指摘する研究が六つも明らかになったにもかかわらず、NOAAの指導部はその関係を否定し、研究者を検閲している」

 同氏は、多くの犠牲を出した「カトリーナ」の被害を繰り返さないために、科学者の責任として警鐘を鳴らすべきだと語りました。この間、「地球温暖化でハリケーンの威力が増す」などの研究結果が発表されています。

 ニューオーリンズの環境NGO(非政府組織)で会長を務めてきたカレン・ウィンペルバーグさん(62)も参加、自身の被災の経験を語りました。ニューオーリンズがハリケーンに「最ももろい都市」だと指摘されたのは一九九五年だったと述べ、長年、対策がとられてこなかったと指摘します。

 「今回の災害は、人災だということは明白です。イラク戦争に資源を使い、市を守れなかった。ブッシュ政権の政策を変えさせない限り、ハリケーンから沿岸都市は守れない」と訴え。「住民たちには一年たっても復興資金が届かない。政府の役割が見えない」とも述べました。

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(写真)NOAAの前でダイインし「カトリーナ」の犠牲にな った人々を追悼する参加者=26日、メリーランド州

 ニューオーリンズ出身の大学生、メリッサ・アモスさん(20)は、「避難した人たちのことを忘れないでください。貧しかろうが、彼らは米国市民です」と語りました。

 このほか、女性団体や反戦平和団体の代表らも訴え。ブッシュ政権に対し「被災者たちに正義を。住民を帰還させろ」と求めました。


“住民を見捨ててきた”

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(写真)「人々のハリケーン救援基金」のスーバー(左)とアクノの両氏

 市内の80%が冠水したニューオーリンズは、約四十八万人いた人口の半数が未帰還のまま。被災から一年となる二十九日には、地元の被災者グループが中心になって「住民の帰還の権利を保障しろ」と訴えるデモ行進が予定されています。テキサス州ヒューストンからも避難している住民がバスで駆けつけるといいます。

 主催団体の一つ「人々のハリケーン救援基金」など被災者支援を進めるNGO(非政府組織)連合体のコーディネーター、カリ・アクノ氏(34)は、政府がニューオーリンズの住民を見捨ててきたと批判します。

 住む場所を失い、帰還できない「二十万人のほとんどが黒人で低所得の人々」だと指摘し、市内ではいまだに洪水被害が放置されたままだといいます。「連邦政府は数十、数百億ドルを復興資金に充てると約束したが、日々、再建に取り組む地域のNGOは自前で活動を行っているのが実態です」と語りました。

 主催者は「人々は尊厳をもって帰還する権利を」と訴え、「手ごろな価格で安全な住宅環境、質のいい学校、まともな職、良質の健康保険」が保障されなくてはならないと主張しています。

 また、二十九日の行動では、千五百人以上といわれる犠牲者を忘れずに追悼することを強調。これは、同市のネーギン市長が、カジノが後援する花火や入場料をとる催しを一周年記念の市の行事として計画したことに対抗したもの。市民は市長の計画に強く反発し、花火などは取りやめになった経緯があります。

 救援基金のマルコム・スーバー氏(55)は、「いま求められるのは、お祭りではなく政治的意思です」と強調。「政府にその意思があれば、住民は必ず戻ってきます」と語りました。


ブッシュ演説 対応遅れ認める

 「カトリーナ」被災から一年を前にした二十六日、ブッシュ大統領はラジオ演説で「連邦、州、地方の政府がそのような大災害に備えていなかった」と対応の遅れを認めました。

 また大統領は、洪水が「根深い貧困をさらけ出した」とも述べ、犠牲となった多くの住民は、移動の手段もない貧困層の人々であったことにも触れました。


借家人に助成なく/公共住宅取り壊し/半数の病院閉鎖

 被災者支援活動をしてきたニューオーリンズのロヨラ大学のビル・クリグリー教授は、被災から一年にあたり手記を発表。復興が遅々として進まない実態を紹介しています。

 【住宅状況】

 トレーラーハウス(仮設住宅)=ルイジアナ州で七万三千家族が居住。広さは約二十二平方メートル。ニューオーリンズ市に隣接するセントバーナード郡で入居待ちは千六百家族。

 住宅所有者=連邦政府の住宅再建支援助成金に申請した住宅所有者はルイジアナ州で十万人以上。現在のところ支援資金を受け取った人はゼロ。

 借家人=ニューオーリンズ市が失った賃貸住宅は四万三千戸。借家人には、州政府からの住宅再建支援の助成金はない。

 公共住宅=連邦政府は数千人の居住者の帰還を許可せず、五千戸の取り壊しを計画。公共住宅に住んでいた住民の88%の世帯主が女性で、大半がアフリカ系。

 【避難民】

 テキサス州のヒューストン市に十五万人。うち、連邦緊急事態管理庁(FEMA)の住宅支援を受けるのが九万人。テキサス州全体では二十五万人。そのうち41%の家庭は月収が五百ドル(約五万七千円)以下、81%がアフリカ系、59%が無職。

 【水道・電気】

 水道=水道管の破損による水漏れで、毎日二百万ドルの損失。ロワーナインス区の水はいまだに飲むのに適切と認証されていない。

 電気=市内で半数の住宅に通電しているが停電は日常化。民間電気会社の倒産で、何億ドルもかかると見られる発電機の修理がされていない。電気料金の25%増が計画されている。

 【医療】

 半数の病院は閉鎖されたまま。州最大の公共医療機関のチャリティー病院は閉鎖され、再開の見込みがいまだに立たない。市内には、精神病患者のための病院がない。

 【公共教育】

 百を超える公立学校に五万六千人の生徒が登校していたが、今学期末には一万二千五百人に。被災後、多くの地域教育委員会が学校をチャータースクール(公設民営学校)に明け渡した。現在、元の地域教育委員会が管理するのは四校、三校が州管理で、十八校が新たにチャータースクールに。公立学校の七千五百人の教師が解雇された。


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