2006年7月26日(水)「しんぶん赤旗」

男性は「抗議自殺」

秋田生健会 保護行政の改善要求


 生活保護申請を二度却下された秋田市の男性(37)が二十四日に秋田市福祉事務所前の駐車場で自殺した事件を受けて、秋田生活と健康を守る会と「秋田生存権裁判を支える会」が二十五日、記者会見し、保護を適用していれば命が失われずにすんだとして、抗議声明を発表しました。


 同生健会は、(1)福祉棟の目の前を選び、練炭と七輪を用意し車に目張りしていた(2)駐車を注意されない日曜日しかないと友人に話していた(3)同じ友人に「おれみたいな人間はいっぱいいる。おれの犠牲で福祉が良くなってほしい」と話していた、などから、覚悟の抗議自殺と判断していると話しました。

 睡眠障害があった男性は、五年ほど定職に就けずに車上生活(約二年)し、国民健康保険証を持っていませんでした。願いは部屋で寝たい、治療して働きたい、でした。

 同市保護一課は「(却下)判断は適正だった」と話しています。

 抗議声明は、同市福祉事務所の対応が男性の命を奪ったとして「犠牲者を生まない福祉行政への改善」を求めています。

 支える会は声明で、「老齢加算廃止など福祉切り捨ての路線の中に今回の事件がある」とし、市民の立場に立った保護行政を求めました。

 同席した県生活と健康を守る会連合会の鈴木正和会長は「生きていてこそたたかうことができるのであり、自殺は残念」と話し、「明日、県にたいし特別監査を申し入れる」と話しました。


背景に国のしめつけ

 心配されていたことが、またも起こりました。北九州市では、二度にわたる生活保護の求めを拒否された男性が餓死しました。今回の秋田市での事件も、生活保護の申請を「能力を活用していない」と却下されたうえでのことでした。

 生活保護行政が人の命を奪う―。あってはならないことです。二十一日、京都地裁の裁判官は、認知症の母親と心中をはかり承諾殺人に問われた男性の判決で「裁かれているのは承諾殺人だけではない。日本の介護制度や生活保護行政のあり方が問われている」と異例の見解を表明しました。

 これらの事件は生活保護行政のあり方を根本から問いかけています。

 全国生活と健康を守る会連合会(全生連)の辻清二事務局長は「この背景には、『一二三号通知』にもとづく、一九八〇年代来の国・厚労省による申請拒否と保護打ち切りをすすめる『適正化』(しめつけ)行政がある。この方向は、新たな『手引』をつくるなどさらに強化されている」と指摘します。

 ことし三月三十日付で厚生労働省が出した新たな「手引」は、調査と指導・指示による生活保護からの排除をいっそう強める内容です。しかも同省は五月、戦後初めて「全国福祉事務所長会議」を開き、社会・援護局長は“社会保障が最大の歳出になっている。社会保障の分野で改革の手がついていないのが生活保護だ”と切り下げに向けてげきを飛ばしました。

 生活保護の受給者は九六年の八十八万七千人から、二〇〇五年の百四十八万四千人に急増しています。これは、小泉「構造改革」による格差と貧困の広がりの結果です。

 国民の生存権を保障した憲法二五条にもとづき、国が果たすべき社会保障の中心は生活保護です。政府はその責任を投げ捨てようとしています。これでは、北九州や京都、秋田のような事件が頻発しかねません。

 全生連の辻事務局長は「悲劇を二度と生まないために、政府が本来の生活保護行政の立場に戻り、生活保護予算削減のための新たな『手引』にもとづく『適正化』政策を中止すべきです」とのべています。(矢藤実)


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