2006年7月12日(水)「しんぶん赤旗」

改悪介護保険法 実施から3カ月

利用者も事業者も悲鳴


 「介護予防の重視」などを売り物に制度改悪された介護保険法が四月に実施され、三カ月がたちました。政府・厚生労働省の宣伝とは裏腹に、利用者から「必要なサービスが受けられない」と悲鳴が上がっています。(秋野幸子)


ケアマネが見つからない

介護利用計画

 「退院する患者さんのケアマネジャーが、なかなか見つからない」。埼玉協同病院(埼玉・川口市)の医療ソーシャルワーカー・小林美沙さんは訴えます。

 ケアマネジャーは、介護保険を利用するのに必要なケアプラン(介護サービスの利用計画)を作る専門の職種です。ところが、三月ごろから患者を引き受けるケアマネが少なくなり、数カ所の介護事業者に相談してやっと見つかるケースが増えてきました。なかには十カ所あたって全部断られたことも―。

 原因は、ケアプラン作成に支払われる介護報酬が四月から改定されたことにあります。それまで、ケアマネジャー一人が担当する「標準件数」は五十件でした。それが改定で三十五件に。政府が、担当件数を増やすと介護報酬を引き下げる仕組みにしました。「ケアマネジメントの質を確保する」というのが理由です。

 さらに、介護度が軽い利用者のプラン作成ほど報酬を低く抑えました(表参照)。この結果、ケアマネのいる介護事業者が利用者の件数を調整し、断る事例が相次いでいます。

 横浜市のうしおだ介護支援センターには、「四カ所まわったけど、どこも断られた」などの相談が増えています。要介護1のある男性は、「来月からもう面倒見ないから、よそでケアマネを探して」といきなり言われ、同センターを頼ってきました。ケアマネジャーの片野一之さんは「“軽度”の人が行き場を失っている感じです」と言います。

 介護事業者も深刻です。埼玉・川口市にあるケアセンターきょうどうは、六人のケアマネジャーで、三百人を超える利用者のケアプランを作成しています。一人あたり約五十人。そのため、四月からは介護報酬が四割カットになり、月に約百万円の減収となりました。

 管理者の加藤たい子さんは、「『よそに行ってほしい』と利用者の方を切り捨てることはできない。しかし、このままでは運営がなりたたない」と話します。

表

「軽度」の人から“貸しはがし”

福祉用具

 改悪では、「軽度」の人(要支援1、2と要介護1)に対し、車いすや電動ベッドなどの福祉用具の利用を制限しました。要支援・要介護1で現在、電動ベッドは約二十七万人、車いすは約十一万人が利用しています(厚労省調べ)。この人たちは十月から介護保険での利用ができなくなります。今までより高い費用で自費でレンタルするか、購入するか、利用をあきらめるかの選択を迫られることになります。

 全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)のおこなった調査には、深刻な事例が寄せられています。

 在宅酸素を利用している女性(68)は、電動ベッドで上半身を起こしていないと呼吸が困難です。しかし、要介護2から要介護1に変更され、ベッドが使えなくなります。「自費のレンタルをすすめられたけど、経済的に無理。寝たきりで過ごすしかないのか…」と話しています。糖尿病で両足を失った六十代の女性が「要支援2」になり、車いすが使えなくなるという事例もありました。

 厚労省は、「福祉用具に頼っていては、かえって生活機能を低下させる」ことを理由にしています。全日本民医連の林泰則事務局次長は「まさに“貸しはがし”。ベッドがあるから立ち上がれる人から用具を取り上げることは、介護予防にも逆行します。“介護保険の費用を抑える”という目的が先にありきで、高齢者の実態を見ていない」と指摘します。

生活援助の時間に制限

ヘルパー

 介護予防サービスは、“自分でやることが基本”とされています。このため、支援できる家族がいないことや地域に介護保険以外で利用できるサービスがない場合などでなければ、ヘルパーによる生活支援が基本的に受けられなくなりました。

 要介護1―5の人も、四月から掃除や調理などヘルパーの生活援助の介護報酬が改定されました。それまでは一時間を超えると三十分ごとに八百三十円が加算されていましたが、改定後は一時間以上どれだけやっても報酬は同じ(二千九百十円)。そのため、生活援助の時間が減らされる事態が起こっています。

 全日本民医連の調査では、要支援2の女性が、四月から訪問介護の時間を一回一時間半に減らされた例や、「短時間の訪問では、一人暮らしの方の話し相手になる余裕がない」というヘルパーの声などが寄せられました。全日本民医連の介護保険実態調査には、これまでに約百七十件の回答がきています。七月中にも調査結果をまとめ、政府に改善を求める予定です。


 改悪介護保険法 昨年六月、自民、公明、民主の各党の賛成で成立しました。

 改悪の柱の一つは、特別養護老人ホームなど施設に入所する人の居住費と食費、デイケアなど通所施設の食費を全額自己負担にすることです。昨年十月から実施され、これまでに少なくとも千人以上が、負担増が原因で施設を退所したことが明らかになっています。

 もう一つの柱が、四月から始まった新しい「介護予防サービス」の導入です。これまで六段階にわかれていた要介護度を七段階に変更し、高齢者を従来の介護給付を受ける要介護者と、新しい予防給付を受ける要支援者にわけました(表参照)。

表

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