2006年7月5日(水)「しんぶん赤旗」

日米 貧富の格差拡大 米英で指摘


 「富めるものがますます富み、貧しい人がますます貧しくなる」。グローバル化(経済の地球規模化)の名で世界的に押し付けられている米型資本主義や新自由主義への疑問や問題提起が米英両国で相次いでいます。英誌『エコノミスト』(六月十七―二十三日号)は、米型モデルを熱心に導入した結果、格差が拡大した好例として日本をとりあげ、小泉構造改革の問題点を特筆しています。


米型資本主義に批判

 『エコノミスト』は米資本主義と格差社会の問題を特集し、「不平等とアメリカン・ドリーム」と題した巻頭言で、世界で最も強力で見事だと宣伝された米国の資本主義が内外で不評を買っているとして「いささかの調整が必要だ」と強調しています。

 「米国の不平等」と題した特別リポートでは、さまざまな角度から米国社会の格差が固定化し、拡大している実態を明らかにしました。

 かつては全階層の所得を押し上げてきた生産性の上昇が、今では一部の人にしか利益をもたらさなくなっていること、高所得を保証する教育が富裕層の子弟に偏るなど、社会階層の固定化が進んでいることを紹介しています。

 底辺の肉体労働者とともに、これまで成長の恩恵をうけてきたホワイトカラーや中間層が打撃をうけ、社会的な排除にさらされていると指摘。その一方で、ごく一部の富裕層が極端に所得をのばし、富の偏在が激しくなっているとしています。

 カリフォルニア大学バークレー校のエマニュエル・サエズ氏などの調査を示し、最も収入の多い米国人の1%の総収入全体に占める割合が、一九八〇年の8%から二〇〇四年には16%に倍増したことを紹介。「底辺はこれ以上悪化しないが、上はさらに急上昇し、中間層は圧迫されている」と指摘しています。

 「経済が鈍化すれば、グローバル化への米国人の批判が高まる。そうなれば、有名な米国人の格差への寛容も限界に達するかもしれない」として、格差に寛容だった米国で今後批判が強まり、格差是正の動きが広がる可能性を指摘しました。

日本、先進国で4位の収入差

 英誌『エコノミスト』同号は、グローバル化で競争が激化する中で、米国型の格差拡大が進んでいる国の例として日本をとりあげています。

 同誌は、社会格差の大きい米国型経済社会を推進するグローバル化のもと、「富裕な世界で、世界的な競争が経済の規制緩和をいっそう進め、格差を拡大している。日本がその一例だ」と指摘。かつて平等主義をうたった日本で、「持てる者」と「持たざる者」の格差拡大が国会やメディアで議論され、その要因として、グローバル化や小泉政権の構造改革、企業による非正規雇用の利用や安易な解雇が批判されていると説明しました。

 また「日本の不平等の象徴になった」人物として、証券取引法違反に問われているライブドア前社長の堀江貴文被告や村上ファンド前代表の村上世彰被告を挙げ、証券取引法などの違反よりも、「利益追求」が批判されているとしています。

 同誌はさらに、「一九八〇年代初頭以降、日本の収入の不平等は拡大してきた」として、京都大学大学院経済学研究科の橘木俊詔教授による所得格差を測るジニ係数を用いたグラフを掲載。日本が米国、イタリア、英国に続いて先進国で四番目に収入の格差が大きい社会になっていることを紹介しています。

 格差拡大の原因としては、高齢者の間の所得格差、青年の所得差、労働市場の柔軟化を指摘。とりわけ青年の問題については、失業者や非正規雇用の増大を挙げ、一九九〇―二〇〇五年の間に、給与外の手当がない低賃金の非正規雇用が労働人口の五分の一未満から三分の一近くまで増え、これが格差拡大を招いているとしています。

 また、過去十年以上にわたって、労働の柔軟化が企業債務の削減に貢献し、それが一要因となって現在、企業の記録的な利益が生み出されていると強調しました。(ロンドン=岡崎衆史)

米都市、中間層減り二極化

 米国の代表的シンクタンクであるブルッキングズ研究所はこのほど、米都市部で過去三十年間、中間所得層の居住地域が衰退し、高所得層と低所得層地域への二極化がいっそう強まっているとする報告書を発表しました。

 「米都市部での中間所得層地域の衰退―彼らはどこにいったのか」と題された報告は、全国の百大都市を対象にしたもの。中間所得層の減少と中間所得層が住む地域の衰退を指摘しています。

 報告によると、都市部での中間所得層の居住地域は58%(一九七〇年)から41%(二〇〇〇年)に減少しています。中間所得層は28%(同)から22%(同)に減少していますが、中間所得層の居住地域減少の度合いは、そのペースを大きく上回っています。

 さらに七〇年からの三十年間に、都市の低所得地域と高所得地域の区別が強まったとしています。七〇年には、中間所得地域に住む人の55%は低所得家族でしたが、二〇〇〇年には、その割合が37%にまで減少しました。

 ブルッキングズ研究所のアラン・ベルベ研究員はワシントン・ポスト紙に対し、「過去三十年間に所得面での統合が進んだ米国の都市は一つもない」と指摘。三十年前には、低所得層であっても、高所得層とともに居住する地域にいれば、よい学校環境や安全な地域が保障されたが、今では「裕福な地域に住んでいないと同様の環境は得られなくなっている」と語っています。

 同報告は、都市部での中所得層地域が衰退しているのは、「高所得または低所得の家族が、自らの経済的特徴を反映した地域への移住を加速」させていることの反映だとし、「中所得層地域が脆弱(ぜいじゃく)性を強めている」結果だと分析しています。

 同報告は、「居住地域によって生み出されている格差」に対応する「新たな課題」として、「世帯の流動性、主な公共サービスの提供の改善、困難を抱える地域への民間部門の投資の促進」の必要性を指摘しています。(ワシントン=鎌塚由美)


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