2006年6月19日(月)「しんぶん赤旗」

シリーズ 職場 成果主義を追って

福祉サービス削れば評価!?

「行革」競わせ 賃金に格差

川崎市の人事制度


 川崎市は四月、今年度の「成果」を評価し、来年度の勤勉手当(一時金)に反映させる人事評価制度を導入しました。住民と身近に接する職員の間で「市の方針に沿って福祉を切り詰めることが評価につながるのではないか」との懸念が出されています。


職員に5段階年52万円の差

 同制度は、職員が立てた目標を難易度と達成度ではかる「業務評価」と「能力評価」をもとに、人事や賃金に格差をつけます。市長が管理職を、局長が副主幹以下の職員を五段階で評価し、局長級で最大五十二万円(年間)もの差が生まれるとみられています。

 「市民の役に立つ目標をもって働くのはいい」と福祉関係の仕事に就くベテラン男性職員は言います。しかし、「お金をからめて職員を競わせる仕組みになっていることが怖い」と不安が募ります。

 同市の阿部孝夫市長は、臨海部開発などの大型事業をすすめる一方で、財政危機を理由にした「行財政改革」を推進しています。学童保育所の全廃をはじめとする市民生活に直結した事業の打ち切りや保育所の民営化、民間委託などをすすめ、〇二年度からの三年で千人を超す職員を削減しています。

 人事評価制度は、この「行革」の流れのなかで導入されました。職員に求められるのは「行革」を推進する立場で目標を立てることです。同制度のガイドブックには、高い評価につながる目標として「極めて大きな経費削減」「収入の確保に極めて大きく貢献すること」もあげられています。

 男性職員は不満を隠せません。「住民サービスを改善する目標もありますが、福祉の分野で財政効果を上げようと思ったら、サービスを切り詰めるか、負担を増やすしかないですよ。市長や局長のさじ加減でいかようにも評価されるようなやり方で『行革』の方針に逆らえないようにする。これで市民の暮らしがよくなると思いますか」

視線の先には市民より上司

 福祉サービスの低下を危ぐする声は、別の福祉職場からも出されています。

 経済苦や病気を抱え、福祉を必要としている人たちの力になりたいと働く職員たち。親身に寄り添うほど時間がかかります。しかし、制度導入後、経費を削減することや、上司の目に映りやすい事務処理ばかりを迫られるような雰囲気が生まれています。

 「上司に見えない訪問活動や雑用など点数にならない仕事を避け、目標にしたことだけやればいいとならないか」「市民ではなく上司に目が向き、上司にごまをする職員が増える」。職員の間で、そんな会話が交わされるようになっています。「市民に寄り添う仕事が軽視され、やる気がなくなる」という声も聞こえてきます。

 ある職員は、疑問がぬぐえません。「無駄を削り、事務を処理することも必要だが、それに追われることが福祉に求められる世界ではないはず」

管理職からも疑問視する声

 職員が目標設定に頭を悩ませていた春先、評価者である管理職の男性も重い気分だったと明かします。

 同制度は、最上位のランクが一割、二位までで三割と枠が決まっています。みんなが高い目標を定め、それを達成したとしても枠内におさめきれません。このため、あらかじめ年度始めの段階から、目標を下げざるを得ない職員が生まれます。

 職員が自己申告する目標の難易度は、ABCDの四つに分かれ、高いほど達成したときの評価が上がります。しかし、B以上は部局ごとに三割以内と限られているため、管理職がその調整を行います。この管理職の男性も泣く泣くCに変えてもらった部下がいました。そのときの気落ちした姿が忘れられません。

 男性は、問いかけるように言います。「どんなに市民のために頑張ろうとしても、それを評価し、応援するような制度になっていない。むしろ、評価ばかりに目が向き、住民のための仕事が成り立たなくならないか。自治体の仕事に成果主義は必要でしょうか」


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