2006年6月10日(土)「しんぶん赤旗」

いま地方で

唯一の公共の足 バス路線4割廃止

規制緩和 自治体にツケ

鹿児島・大隅地域


 「鉄道に続き、今度はバスまでなくなるのか」「移動手段がまったくなくなる」―。鹿児島・大隅地域に激震が走っています。大隅半島では1987年に鉄道が相次いで廃線となり、今では唯一の公共交通機関がバス路線です。それを、10月末には4割も廃止するという計画に不安が広がっています。


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 薩摩半島に対峙(たいじ)するように大きく広がる大隅半島。温暖な気候のもとで和牛を育てる畜産、サツマイモの生産が有名です。山間地を縫うように暮らす四市五町二十七万人の“住民の足”は、民間のバス会社・岩崎グループが幹線道路を中心に走らせる路線バスです。

のべ30万人が利用

 大隅地域の廃止対象路線の利用者数は年間百二十万人余り。うち通学や通勤などにバスを使う定期利用者がのべ三十万人もいます。

 大隅半島の中心都市の鹿屋市。日中バスセンターでバス待ちをしていた男性(65)は、路線バス廃止計画に「エッ、このバスなくなるの。なんで?」と驚き顔です。

 呼吸器系の持病を抱える男性は、自宅からバスを乗り継いで月三回、一時間余りかけて病院に通っています。「タクシーを使ったら病院まで八千円以上もかかる。バスがなくなったら、いったいどうしたらいいんでしょうか」と。

 利用者はお年寄りが目立ちます。鹿児島県の高齢化率は24・3%、全国五位の高水準。一日一往復しかないバス路線もあってかなり不便ですが、運転免許を持たない学生やお年寄りなどの交通弱者にとってバスは重要な“生活の足”です。

 「トラックの運転手を二十五年間務めて無事故・無違反」と胸を張った男性(73)も、不安は隠せない様子です。「昨年、脳こうそくで倒れてね。手足がしびれてもう運転はできない。バスがなければ出歩けなくなる」といいます。

自治体対応に限界

 なぜ、こうも簡単に、公共性の高い路線バスを廃止できるのか―。

 岩崎グループの菅井憲郎専務は「規制緩和以降、営業収益のあがる分野での競合が激しくなり、既存の事業者の収益を圧迫しています。この赤字路線を抱えたままでは、民間事業者は成り立ちません」と、規制緩和の影響を口にします。

 岩崎グループは、国の規制緩和措置を受けて、地元自治体や住民の多くが反対しているにもかかわらず、国土交通省九州運輸局鹿児島運輸支局に路線バスの廃止届を提出しました。

 ある自治体の幹部は、「県、自治体、会社で路線バスの存続に向けた協議を続けている最中の廃止届です。『廃止先にありき』で、岩崎側がバス路線の存続に向けた意思をもっているのか疑問に思わざるを得ない」と不信をあらわにします。

 しかし、岩崎グループの菅井専務は「通学や通院などの福祉としての必要性がある路線は自治体が運営主体となっていただかないと」と露骨です。

 住民の足をどう確保するか―。鹿児島県の自治体には重い課題です。

 大隅半島の西の玄関口に位置する垂水(たるみず)市。市ではバス路線確保のための専任の職員をおき、廃止対象路線の利用者数や収益などの実態調査を始めています。

 同市の迫田裕司・企画課長は「採算性の面からバス路線が廃止されて、まったく公共交通がない集落もすでに市内に生まれています。今回の路線廃止計画では、複数の市町村にまたがる経路も多数含まれており、一自治体での対応にも限界がある」と指摘します。

 垂水市では、赤字額の二分の一を自治体が負担する廃止代替バスを民間事業者に委託。しかし、廃止代替バスの補助金額は既に年間六百万円にのぼり、これ以上の負担は厳しいのが現状です。


 バス事業の規制緩和 二〇〇二年の道路運送法の規制緩和で、バス事業への新規参入が免許制から許可制に変更しました。路線バスの廃止も許可制から届け出制に変わりました。鹿児島でも、収益の大きい貸し切りバス部門などに新規事業者が参入。黒字部門の収益を赤字路線にまわす余裕がなくなったため、赤字路線をいっせいに廃止するというのです。


公共交通確保国の責任で 

 日本共産党のまつざき真琴県議の話

 「政府がすすめた規制緩和路線が地方のバス路線の切り捨てにつながっています。地方のどこに住んでいても安心して生活できるようにするために、公共交通を確保することは国の重要な責任です。実態調査をただちにおこない、国に対しても必要な財政支援をするよう強く求めていきたい」


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