2006年5月23日(火)「しんぶん赤旗」

シリーズ職場

成果主義を追って

授業見ず先生を評価

「通知表の字が汚いからC」

大阪の公立学校


 大阪府の公立学校(小中高・養護学校)の教職員に「評価・育成システム」という成果主義管理が導入されて二年がたちました。府当局は、来年度にも賃金に反映させようとしています。

 しかし、学校の現場からは、所属組合や立場の違いを超えて、「教育に成果主義はなじまない」「賃金にリンクすれば教育がゆがめられる」との声が広がっています。

5段階で

 同システムは、一年半の試験・試行期間を経て〇四年度から実施されました。教職員は年度初めに「自己申告票」を提出し、校長との面談をふまえて学習指導、生徒指導、学校運営などについて年間目標を決めます。

 中間で進捗(しんちょく)状況、年度末に達成状況を自己申告。校長がそれを踏まえて「日常の観察」結果を加味し、教職員をSABCDの五段階で評価します。

 子どもたちの状況に応じて創意工夫を発揮するのが教師の仕事だと主張してきた大阪教職員組合(辻保夫委員長)は、府教委から「学校教育目標や学年などの目標は学校の課題に即して、教職員の議論と共通理解を大切にして決定されることが重要」との回答を得て、教職員の自主的な目標を尊重させています。

 一部で、学校の掲げる大学合格者数や進学率に見合う数値目標を持つよう指摘したり、「漢字検定の受験人数を増やして」と迫る動きもありますが、「それでは、個々の生徒の希望がないがしろにされる」と目標の押し付けを許していません。

嘆く校長

 この評価システムは学校の現実にあいません。

 すべての教職員の努力内容を把握するのは困難で「みんなの授業を見て回るなんてできない」と嘆く校長もいます。実際、校長の「観察」は「年度末のギリギリの時期に二十分程度で一回のみ」「小テストのときだけだった」とのケースさえあります。校長が授業を一度も見なかった教師も少なくありません。

 その結果の評価が「あなたの仕事はよくわからないからB」「通知表の字が汚いからC」。なかには「部長や主任に選ばれたらA、他はB」と説明した校長もいます。

 客観的で公正な評価とはいえない内容に、教職員から批判の声が上がっています。三月から四月にかけて、府立高等学校教職員組合(筆保勝委員長)が集めた全教職員対象のアンケートでは、システムの目的である教職員の資質や意欲について「向上した」「やや向上した」があわせて6%。学校が活性化したと答えたのは0・3%でした。「教育活動の動機が、評価や賃金のためであれば、教育のロマンはどこへ行くのか」と憤る言葉もつづられていました。

子と父母の願う学校へ

 学校現場は、過労死ラインと言われる週二十五時間以上の超過勤務者が13%に達しています。(大教組調べ)

希望取り

 そのなかで教職員は「子どもに向き合った教育がしたい」と所属組合の違いを超え、不登校や「学級崩壊」などの教育困難に立ち向かっています。学校行事に子どもの希望を取り入れ、父母と協力して「学校の荒れ」を乗り越えている学校もあります。

 システムは、こうした努力を台無しにしかねません。府立障害児学校教職員組合の福田徹委員長は「二年前、養護学校で働いていたとき、校長が授業中に通るとその目を意識した。このシステムは、子どもに目を向けるより、どう評価されるかが気になっていく。これは教育では許されない」と話します。

 大教組は、同システムが行政いいなりの学校や教職員をつくるもので、子どもや父母の願う学校づくりにならないことを計画当初から明らかにし、「子どもと父母の願いに反するシステムは必ず打ち破れる」を現場共通の思いにして運動をすすめます。

 分会ごとの学習会や撤回を求める署名は、組合の違いを超えて広がり、管理職を除く全教職員が署名に応じた職場がいくつも出てきました。

 システム導入で悩みを抱える校長との共同や対話も始まり、「厳しい職場の実態のなかでみんな苦労しながら頑張っている。評価で差をつけることはできない」と心情を吐露する校長もいました。府教委の調査では、システムが教職員の育成に役立つと答えた校長は三人に一人でした。立場を超えた合意がつくられていきました。

批判の声

 二〇〇五年十二月、府教委は突如、同年度の評価を〇六年度の賃金に反映させる計画を打ち出します。撤回を求める署名は十日間で二万一千人分集まり、批判の声は校長や管理職からも上がります。府教委は一月二十四日に計画を断念せざるを得ませんでした。

 ところが府・府人事委員会は四月一日付で、〇六年度の評価結果を賃金に反映させる条例と規則の改定を強行しました。評価結果によって昇給と勤勉手当の支給月数に格差をつけるというもの。〇七年度から全教職員の一時金を引き下げて生み出した二十八億円などを原資にあてるとしています。

 「システムは子どもの人格形成をゆがめる」「父母や国民が望む教育のためには、廃止、撤回以外ない」。大阪の教職員は、父母、府民と共同した新たな運動を開始しています。


 民間、公務を問わず職場に広がる成果主義賃金と非正規雇用労働者への置き換えが、労働者や職場、住民サービスにどんな害悪をもたらしているのか。職場からの告発と打開めざすたたかいをシリーズで追います。職場取材チーム


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