2006年5月15日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

あっ! 悪質商法 ?

――被害に遭わないために


 新年度が始まって1カ月たちました。新入生や新社会人、若者を狙った「悪質商法」の被害が増える時期です。被害に遭わないためにどうしたらいいのでしょうか。(伊藤悠希)


アンケート後に電話が

 埼玉県の大学四年生、森拓実さん=仮名=は東京・新宿駅前で就職活動中の学生を対象にしたアンケート調査に協力しました。その夜、アンケートを取っていた女性の電話を受け、英語教材を勧められました。「会社に来て説明を聞かないか」。福祉関係の仕事をしたい森さんは自分には英語は必要ないと思いながらも応じました。

 女性は具体的に近い日を設定しようとします。森さんは電話口で説明された場所をメモに取りました。最後に女性は「ドタキャンはなしですよ。私が担当してるから安心して来てね」。営業の女性はこんなものと思った森さんは特に疑問を感じませんでした。

 違和感を覚えたのはすぐ後の別の電話を受けたときです。森さんは池袋でも同じようなアンケートに答えていました。電話に出ると、先ほどの女性が間違えてまた掛けてきたのかと思うほどそっくりな内容と声でした。「続けて二件同じ内容の電話を受けたから変だと感じたが、一件だけだったらそうは思わなかった」

 思い返してみるとおかしいと感じることがありました。池袋で最初にアンケートを受けた日が就職活動の初日だった森さん。初対面にもかかわらず女性の口調は友達のようで、「ちゃん」付けで名前を呼ばれました。アンケート後、渡された紙には女性の名前と「就活がんばってね」のメッセージ。

 二つの電話を受けた後、不安に思った森さんは先輩に相談します。大丈夫だと言われますが、おかしいという思いはぬぐえませんでした。若者を対象とした消費者啓発セミナーへの参加を申し込んでいた森さんは、セミナーのチラシの「悪質商法」という文字を見て「あっ! 悪質?」と思わず声を上げてしまいました。森さんは悪質商法だと気づきました。

若者心理、ち密に計算

 今年三月まで、大学で授業を持ちながら学生相談員をしていた村千鶴子東京経済大学教授(弁護士)は「四、五月に多い相談は消防署員を装った点検商法、強引な新聞の勧誘など毎年起きる典型的なものです。昨年の春から夏にかけてはワンクリック詐欺が多発しました。秋から冬にかけてはハガキの架空請求が増加しました」と話します。

 四月は新入生や新社会人は気が張っていますが、生活に慣れてきたころにだまされる傾向があるようです。

 友達感覚で話しかけられる「デート商法」は、若い女性には若い男性が声を掛け、若い男性には若い女性が声を掛けてきます。街頭で声を掛けられメール友達になるところから始まります。お茶に誘われ、「君だけ特別に招待する」と言われ会社に連れこまれます。「ダイヤ似合うね」とおだてられ、「月いくらなら払える?」と聞かれます。いつの間にかサインをして買ってしまいますが、「いい買い物をしたね。ご飯を食べに行こう。今度はケーキをごちそうするよ」。

 そして次々に買わされていきます。「このやり方はだまされた方も『だまされた』と感じにくい。自分を認めてくれることを求めている若者の心理を悪質業者側はち密に計算している」と村教授は話します。ほかには、「絵の展示に行かないか」と誘われ、高額な値段で絵を買わされるなどのキャッチセールス。電話で「懸賞があたりました」などと呼び出されるアポイントメントセールスがあります。

加害者になる危険性も

 東京市民法律事務所の宇都宮健児弁護士は若者をターゲットにした悪質商法がはびこる背景について話します。「判断力の足りない若者が狙われやすいこと。不況で仕事がないために『いいバイトがある』などの誘いを受けてマルチ商法などの悪質商法に手を染めてしまう若者がいるということです」。悪質商法にかかわることの危険性について宇都宮弁護士は「マルチ商法は被害者から加害者になってしまいます。悪質商法について無知だと加害者になってしまう危険性があるのです。知識として知っておくことが加害者にならないということにつながります。いつの間にか加害者になっていたということにならないようにしてほしい」。

手口知れば身を守れる

 村教授は最近の悪質商法の手口の特徴を「商売の基本を通していない」と話します。「被害者は相手から買う意思を問われません。世間話をして感想を求められ、それに応じていただけです。買うつもりがないと言っても相手は聞き入れてくれない。なんとかわかってもらおうとしてもどうにもならない。その場を逃れようとしてサインしてしまうというパターンが多いのです」

 加害者が悪質商法を違法ではないと信じている傾向がある、ともいいます。「ルールはどうでもいいという勝ち組、負け組の論理ですね。もうけた者が勝ち、だまされた者が負けという発想です。これは若者だけに見られる特徴ではありません。耐震偽装、ライブドア事件、貸金業規制法違反で業務停止命令を受けたアイフル、業務改善勧告を受けたスカイマークエアラインズなど企業がルールを守らず利潤を追求しています。それを見ている若者も法律がなんだ“やりとく”と思ってやっているのです」

 村教授は話します。「業者は『みんなやってます。はやってます。もてます』というセールストークで迫ってきます。納得できる自分の目標や人生観を持っていないとスキにつけこまれやすいのです。新入生、新社会人にとって四、五、六月は引っかかりやすい時期でもあります。手口を知っておくことは自分の身を守ることになります。焦らずに自分のライフスタイルを確立することも大事です」



グラフ



 マルチ商法 販売組織に入っている人が新しい人を加入させ、さらにその新加入者が新しい人を加入させることを次々に行うことでピラミッド型に拡大していく商法です。ねずみ講はお金ですが、マルチ商法は健康食品や洗剤、浄水機などの商品。法の網をかいくぐったマルチまがい商法も横行しています。

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夢の教職についたが生徒が荒れジレンマ

  夢がかない、四月から私立の中高一貫校で新任教師として働いています。でも、担任は昨年まで授業が成り立たない学年で、授業中にMDウオークマンを聞く生徒、マージャンをする生徒…。本当は生徒に寄り添いたいのですが厳しいことも言わねばなりません。仕事に追われ、婚期を逃す独身女性が多いことも不安にさせます。(26歳、女性。神奈川県)

行動の背景を把握して

  やっと夢の教職に就いたら、昨年の授業崩壊クラスの担任。荒れ放題で、この先が思いやられる、このままでは婚期も逃すのではないかと不安にかられているのですね。生徒に寄り添おうと思っているのに、それもできないジレンマ。これって、苦しいですよね。

 しかし、今一番必要なのは、このような荒れた生徒の行動や心の背景や原因をしっかりと把握することです。彼らの規律に対する嫌悪や心のうめきが、彼らの心の波長のままに、あなたの胸にビンビンと響いているかどうかです。

 つまり、生徒に何を教え、どんな思いを伝えたいのか、問われているのです。場面が授業であっても、部活であっても、子どもに向き合う教師の基本姿勢と役割は同じです。教師は“魂の技師”なのです。

 自分の伝えたい思いが鮮明でありさえすれば、どんな非行場面であっても、生徒に向かう視点や情熱が揺らぐことはありません。信頼関係が築けていれば、厳しさも優しさ、愛情として、生徒に伝わるはずです。それが、「生徒に寄り添う」という内実、本質なのです。何でも共感的にサポートすればいいのではありません。それはうっかりすると、生徒への侮辱になりかねません。本当の寄り添いができた時、あなた自身の人生も希望に添って輝くはずです。


教育評論家 尾木 直樹さん

 法政大学キャリアデザイン学部教授。中高二十二年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。


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