2006年5月8日(月)「しんぶん赤旗」

共謀罪 修正でも 危険

犯行なくても 犯罪者に


 「共謀罪なんていらない」。そんな世論が次第に広がる一方、自民・公明両党は「修正したから一般の労働組合や民間団体は該当しない」と衆院法務委員会での採決を主張しています。共謀罪とは、どんな法律なのか、修正で国民の不安は払しょくできるのか。改めて検証してみました。(橋本伸)


団体交渉計画も罪?!

 現行刑法は、実際に犯罪行為が行われた場合に処罰するのが原則です。ところが、共謀罪はこの大原則を覆し、犯罪行為が行われなくても犯罪について相談し、合意しただけで犯罪とされるという危険な法律です。

 共謀罪の新設は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」の批准に伴う国内法整備だとされています。

 同条約は、マフィアなどの国境を超える組織犯罪集団の犯罪を効果的に防止するためつくられました。だから適用対象も「越境組織犯罪」に限定し、かつ組織犯罪集団の関与を条件とすると明記しています。

 ところが、政府・法務省提出の法案には、こうした限定がなく、適用対象となる犯罪は四年以上の懲役・禁固に当たる罪で、六百十九種にも及びます。

 このため、一般の会社や労働組合、宗教団体、NGO(非政府組織)など幅広い団体が対象になりかねません。

 「なにかの『犯罪』の『共謀』を口実に、特定の集団を狙い撃ちに検挙することを広く可能とする仕掛け」(自由法曹団意見書)になっています。

 それは、団体の定義をあいまいな形にしているからです。法案には、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀したもの」を処罰するとしか書かれていません。

 これでは、団体が組織的犯罪集団でなくても対象にされてしまいます。

 例えば、ある労働組合が「社長の譲歩が得られるまで徹夜団交も辞さない手厳しい団交をやると決めただけで、組織的強要の共謀罪になりかねません」(日弁連『共謀罪Q&A』)。

歯止めにはならず

 共謀罪への批判が高まるなかで、自民、公明両党は与党修正案を提出、団体を限定したといいます。

 確かに、法案の「団体の活動」に「その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体に係わるものに限る」を追加しています。しかし、これには日弁連から「過去に犯罪を遂行してきた事実も要件とされていない」「組織犯罪集団が関与する場合に適用範囲を限定するべきである」(会長声明)とあいまいさが指摘されています。

 与党修正案はさらに、処罰条件として「犯罪の実行に資する行為が行われた場合において」を追加しました。

 これは、アメリカの共謀罪には、実際に凶器を買うなどの「準備行為」の開始が条件とされていることなどから追加したものです。

 しかし、「資する行為」というのは、「準備行為よりもはるかに広い概念」で、「精神的な応援なども含まれる可能性があり」「ほとんど歯止めにならない」(同)代物です。

 しかも、「資する行為」は処罰条件にすぎませんから、共謀だけで逮捕し、あとから「資する行為」を調べる(でっち上げる?)ことさえ可能です。

 与党修正案は結局、国民の自由と人権にたいする重大な攻撃である共謀罪の危険な内容を改善するものではなく、逆に同法案の危険性を隠ぺいするものといえます。

思想信条も対象に

 そもそも、共謀罪は国際的な組織犯罪を防止することとは関係がありません。しかも、対象犯罪が六百十九と広範なうえ、対象団体を限定しないため、国民のさまざまな活動が適用対象とされ、犯罪の実行はおろか、準備行為にも至っていない意思の合意で犯罪とされるというもので、捜査当局の乱用の恐れははかりしれません。

 第二に、共謀の事実を立証するためには、「意思の連絡」の手段が捜査対象になり、電話などの盗聴やスパイの潜入ということになります。さらに、共謀罪は自首したときは刑が減免されることになっており、密告の奨励など、もの言えぬ監視社会になりかねません。

 第三に、共謀罪は他人の生命、身体、財産などに被害をもたらした行為を処罰するという現行刑法の大原則を覆し、思想信条や内心の自由をも処罰の対象にできることになります。

 このような希代の悪法は廃案にするしかありません。


 「共謀罪」新設法案 法案の正式名称は「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」。4年以上の刑を定める犯罪についての共謀は懲役2年以下、死刑または無期もしくは10年を超える刑を定める犯罪の共謀は懲役5年以下の刑とされています。


近代刑法の原則を覆す

 森卓爾自由法曹団警察問題委員長の話 共謀罪は、犯罪行為を処罰するという近代刑法の原則を覆す悪法です。与党の修正案は、「犯罪の実行に資する行為」を付加したといいますが、「資する行為」という概念はあいまいで、なんの制約にもなりません。

 法務省はホームページで、「表現・言論の自由が制限されたり、『警察国家』や『監視社会』を招くことはない」といっていますが、犯罪を捜査し、人を逮捕するのは、法務省ではなく、まず警察です。ビラまき弾圧事件のような公安警察の暴走が始まっているときに、共謀罪のような警察に使い勝手のよい武器を渡すわけにはいきません。

 共謀というと、みんなで相談するというイメージですが、AがBと相談、BがCと相談、CがDと相談しても、全員が共謀したことになり、組織犯罪になってしまう。犯罪を実行してもいないのに、相談しただけで逮捕されるような悪法は絶対許してはいけません。


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