2006年5月4日(木)「しんぶん赤旗」

主張

大日岳遭難訴訟

学生の犠牲を無駄にするな


 北アルプス立山連峰の大日岳(だいにちだけ)に、やっと小さな春がおとずれました。

 この山で起きた遭難事故の訴訟の判決が四月二十六日に出て、富山地方裁判所が原告である遺族側の訴えを全面的に認め、国に過失賠償を命じたのです。事故から六年です。

なぜ鉄則踏みはずした

 大日岳遭難事故は二〇〇〇年三月に文部省(現文部科学省)の登山研修所が主催した大学山岳部リーダー冬山研修会のなかで起きました。ベテラン講師に引率されて頂上付近で休憩中に、乗っていた雪庇(せっぴ)が崩れて十一人がのみこまれ、二人の学生が犠牲となりました。

 登山研修所は、山岳遭難を防ぐために登山リーダーを養成する目的で設置された国の施設です。その研修会で遭難し若い命が奪われたのですから、ただならぬ事故として大きな問題となりました。

 雪庇には乗らない・踏み込まないが、雪山登山の鉄則のはずです。りょう線からはみ出して吹きだまりにできた雪庇は崩れやすく、崩落の危険にさらされています。それなのに、なぜ雪山を知りつくした講師がこの鉄則を踏みはずしたのか、徹底した調査と原因の究明が問われました。

 ところが主催者である文科省は責任を回避したのです。一年後に同省がまとめた事故調査報告書では、特異な気象条件で過去に例を見ない長さの四十メートルの雪庇が形成されたもので、経験豊かな登山家でも「予見することはできなかった」としてすませてしまいました。

 貴い人命を奪われた遺族にたいする誠実さも欠くものでした。「これでは国の研修会だからと安心して出かけていった子どもが浮かばれない」。遺族の思いがつのり、原因究明と国の責任をただす裁判に立ち上がったのでした。

 裁判では、雪庇の大きさは予見できたのか、事故は回避できなかったのかが争点となりました。証人に立った登山家やなだれの専門家の証言とともに、しだいに主催者側が事前調査もせず、安全にたいする注意義務を果たしていない事実が浮き彫りにされました。

 国の研修会で二度とあってはならない事故です。山のプロガイドや国民救援会などの支援の輪が広がり、日本勤労者山岳連盟も後押ししました。「大日岳遭難事故の真相を究明する会」に寄せられた支援署名は十九万筆にのぼりました。

 判決の日、二人の学生の遺族とともに百人以上の支援者が見守りました。判決が「講師らの登高ルート及び休憩場所の選定には過失がある」と言い渡したとき、遺族のがんばりと世論の支援が実を結びました。

 この裁判は、国・文科省が主催する研修会などでの責任の重さを立証したものだといえるでしょう。この判決を文科省は真摯(しんし)に受け止め、遺族への賠償命令に即刻従うべきです。不服として控訴するなど許せません。

登山研修の充実はかれ

 「この判決を機に登山研修を充実してほしい」。遺族と登山愛好者の強い願いです。ゴールデンウイークの最中でも雪崩などによる山岳遭難が起きているだけに、国・文科省に求められているのは登山技術を身につけたリーダー養成にいちだんと力を注ぐことです。

 日本共産党は、大日岳遭難事故発生の当初から国の責任問題を重視し、「しんぶん赤旗」で裁判を激励してきました。ひきつづき、国に判決の誠実な実行を迫る遺族らの活動を支援するとともに、登山研修所などの充実を求めていきます。


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