2006年3月26日(日)「しんぶん赤旗」

中古家電販売規制の撤回

日に日に広がる世論

国を動かした43日間


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(写真)消費者・国民にアピールする、リサイクル業者と若 者たちのPSE法反対デモ=18日、東京・杉並区

 電気用品安全法により、PSEマークのない中古品の販売禁止という国の方針が、国民の厳しい批判で撤回されました。今年二月十日、ホームページ上にこの方針をのせ、「ルールの変更はできない」とかたくなな態度をとり続けた経済産業省。同省が二十四日、方針を変更するまでの四十三日間を振り返りました。(PSE問題取材班)


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(写真)窮状を訴え、PSE法の問題点を指摘し経済産業省を大きく動かした中古業者たち=10日、国会内

 経済産業省の方針転換から一夜が明けた二十五日、東京・東大和市のリサイクル店、実宝堂店主の猪原静さん(66)は「うれしいやら、泣きたいやら」と心境を語りました。「四月から売れなくなるというので、金をかけて六十万円分の商品を捨てた。店の商品は半分になっちゃった。あと五日と迫ったら、誰だって捨てるでしょう。国はほんとうにきたないやり方をする。役人は私らの苦労がわからない」

“完全敗北”認める

 国の方針変更を待ちきれずに廃業した業者もいます。甚大な被害を及ぼした経済産業省のPSE問題の軌跡をみると―。

 「レンタルも販売の一環」「レンタルということで販売したあと、無償譲渡したら販売ではない」――二十四日の記者会見で経済産業省は、こっけいな解釈を並べて、PSEマークのない中古品をこれまでどおり販売することを認めました。

 これに先立つリサイクル業者との交渉の席上、経済産業省は、「みなさんの要求を全面的に認めさせたと(全国の業者に)流してもらっていい」とのべ、“完全敗北”を認めたといいます。

 経済産業省が、中古品もPSEマークの対象だと発表したのが二月十日。その一週間後の十七日、リサイクル業者などが中古品にPSEマークを張って販売するための手続きを明らかにしました。そこでは、製造事業者として届け出て、「技術基準への適合確認」など製造メーカーと同様の手順を求めました。

 また、製造物責任、事故等の賠償責任も伴うなど、販売業者にとって不可能ともいえる条件をつきつけたのです。

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(写真)質問する塩川鉄也議員=1日、衆院予算委分科会

塩川議員の追及で

 「中古家電が販売できなくなるのではないか」という情報がインターネット上で流れ出したのは、一月下旬です。

 本紙は二月十七日付一面トップと三面特集で「中古家電販売ダメ」と報道。「リサイクル店や楽器・オーディオ店、質屋、骨とう品店などが、倒産の危機に」と伝えました。全国紙で初めてのこの報道は、ネット上でも無数に紹介されていきました。

 同日、経済産業省には電話が殺到。本紙の取材申し込みに「ご指摘の件で忙しく、(取材には)二、三分しか対応できない」と、てんてこ舞いの状態になりました。

 翌十八日には、坂本龍一さんら音楽家が「日本の音楽と芸能文化の発展に支障をきたす」と、電子署名を呼びかけました。

 新聞各紙の報道が続き、テレビもワイドショーなどで次々ととりあげ、一気に世論に火がつきました。経済産業省には連日、百から百五十件の電話が続きました。

 世論の沈静化に躍起になっていた経済産業省に痛撃を与えたのが日本共産党・塩川鉄也衆院議員の国会質問(三月一日)でした。

 経済産業省監修の法令集でも中古品についての記載がまったくないことを示して「中古品は法の対象外」だったことを明らかにしたのです。

 本紙は、この質問を跡付ける特集を五日付で掲載。法施行からほぼ五年間にわたって中古品が対象になるとはどこでも説明していないことを調べ上げ、「法も行政も想定外だった」と報じました。

中古家電販売規制の撤回

 経済産業省の無理な法解釈と、リサイクル業者へも国民にも周知がなされていなかったことが、疑問の余地なく明らかになりました。

 これを前後してリサイクル業者による「PSE問題を考える会」が結成され、世論と行政に働きかける活発な活動がスタート。各地で業者の呼びかけによるデモも行われました。

 リサイクル社会、循環型社会づくりという流れに反するという消費者との連携も広がりました。

 「このまま中古家電が売れなくなれば不法投棄もおこる。ごみの山ができると心配だ」(自治体関係者からのメール)、「金がないから中古を買うのに、その中古を禁止して、一体どう生活しろというのか」(男性からのメール)、「僕はエレキギターをやっています。中古アンプの販売が違法となってしまうことを知り、とても不満に思います」(男子中学生からのファクス)など、怒りは日に日に強まりました。

持ちこたえられず

 世論に抗しきれなくなった経済産業省は十四日、「緊急対策」を発表。希少楽器などを除外する「ルール変更」を打ち出し、これまでの「すでに対応した業者もいるのでルールは変えられない」という論拠がくずれました。また、他の中古品の漏電検査を支援するといったものの、肝心の検査機器は五十台弱しか確保されていないなど、数万の業者支援はできないことも明白でした。

 経済産業省のなかからは「ギブアップ状態」の声がもれてきました。この「緊急対策」の説明を最後に、この問題を所管している製品安全課が表舞台から姿を消しました。

 対応の所管は、十七日に水面下で消費経済政策課にバトンタッチ。二十日の業者交渉から同課の課長が登場。PSEマークなしで中古品販売を容認することにしたのです。

一体となった世論

 業者、音楽家、消費者が一体となった大きな世論の前に、経済産業省も異例の方向転換を余儀なくされたのです。

 製品流通前の国の安全性チェックを後退させ、製造メーカーまかせにする電安法のそもそもの問題点や中古品の安全性確保などへ向けた論議はさけられません。


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