2006年3月15日(水)「しんぶん赤旗」

06年 政治考

“まともな野党を”の声

「偽メール」と2大政党


 民主党代表に前原誠司氏が就任してから十七日で半年になります。「外交・安全保障で自民党と立ち位置は同じでいい。違いを出すのは内政だ」(前原氏)といって、与党と「改革競争」をしてきた前原民主党。「偽メール問題」で見えてきた「二大政党」の姿は、いま求められる野党像は――。

“根幹”は共通

 「メール問題ではちょんぼしたが、国の根幹にかかわる問題で迷走したりちょんぼはしない」

 東京・日本武道館で七日開かれた「皇室の伝統を守る一万人大会」。中井洽民主党前副代表は来賓あいさつで、同党の国会論戦を自ちょう気味に振り返りました。大会には自民党五十四人、民主党二十一人の衆参国会議員が出席。「皇室への敬愛の念を高める学校教育の内容充実」などを求めた大会決議文が主催者側から両党代表に手渡され、その結束ぶりを示しました。

 ほぼ同時刻、民主党本部で記者会見した前原氏は「野党第一党が停滞することは一刻の猶予も許されない」と強調し、自治体ぐるみで反対運動が起きている米軍再編問題についてこういいました。

 「米軍再編は大きな世の中の流れ。米軍がもつ軍事技術、戦略の変化で再編が行われることはわれわれも理解している」

 政府・与党と“国の根幹にかかわる問題”で共通であることを改めて示した発言でした。

 いま、多くの民主党議員が自身のホームページで「偽メール問題」の“総括”をしています。前原氏に近い長島昭久衆院議員の弁は―。

 「政府批判に汲々(きゅうきゅう)とする余り、常軌を逸した『追及路線』を突き進んでしま(った)」「健全野党の原点に立ち返り、あくまで政策本位の改革競争を通じて、失った国民の皆さまの信頼を回復するべく、全力を挙げて努力してまいる」

 一方、国民の視線はどうでしょうか。

しっかりして

 リスナー(聴取者)が参加して討論するTBSラジオ番組「アクセス」。前原代表は辞任すべきか否かをテーマにした二月二十七日の放送には、野党のあり方を問う声が多数寄せられました。

 「メール問題という以前に、自民党に『手加減』されているという現状からみて、前原代表は野党の党首としては終わっている」「結局は保守的な野党かよ! というマイナスイメージがつきまといます」「もっとしっかりしてくれ! 野党よ!」…。なかには「最近共産党が野党として一番まともに思えるときがある」という声もありました。

自民・財界 救いの手のココロ

「改憲へ連携する時くる」

 「民主党は昨年の衆院選で敗北した後も、基本政策の点で自民党と根本的な違いを示せないでいる。そんななかで、有権者に、よりインパクトの強いものを示そうと焦ったため、裏付けのない『メール問題』に飛びついたのではないか。その結果、政権党を助けることになってしまった」

 神戸学院大学の上脇博之教授は、いまの政党状況についてこう指摘します。

「補完勢力」に

 窮地に陥った民主党には、激しく攻撃した自民党から救いの手が差し伸べられています。

 「全面降伏だから、武士の情けで深追いはしない」(片山虎之助参院幹事長、四日)。小泉純一郎首相は「過ちを反省して出直せば、いい経験となる。失敗を今後の成長の糧にしていただきたい」(一日)と前原氏にエールを送りました。

 その心は―。中曽根康弘元首相がこう語っています。

 「勝った負けた以上に、将来民主党と自民党が憲法改正、(改憲手続きを定めた)国民投票法、教育基本法改正の問題で連携しなければならないときが出てくる。そういう将来を考えてみると、むこうが一番困ったときにあたたかい手を差し伸べてあげることが将来のためにもなる」(五日の民放番組)

 求心力を失った民主党を追い込むより、「補完勢力」として利用したほうが改憲や教育基本法改悪などを進められるという判断です。

 混迷の民主党を、自民党と一緒に盛り上げようとする動きもあります。

 財界関係者も参加する「新しい日本をつくる国民会議」(二十一世紀臨調)は八日、九月の自民党総裁選と民主党代表選に向けた緊急提言を発表しました。次期衆院選を両党の争いにするため、党首選挙では「党首マニフェスト」を作成する、両党の総裁選、代表選を前に党大会を開いて国民の関心を引き寄せ、政策論争を行う――というものです。

 この提言にさっそく反応したのが民主党です。「21世紀臨調の問題提起を歓迎するとともに、その問題意識を共有している」との鳩山由紀夫幹事長名の談話を同日発表。自民党の中川秀直政調会長も記者団に「提案は傾聴に値する。私なりに検討したい」(八日)と答えました。

 一連の「偽メール問題」から見えたのは、政府・自民、財界そろって民主党を救い、民主党がその流れに乗っていっそう「改革競争」の暴走を強める姿です。

一発狙いでは

 こうした事態に新聞の投書欄では「靖国問題や基地問題の底流には憲法の精神を無視して進められている施策があるのに、『改憲』に軸足を置く民主党では、どうしても腰が引けてしまう。恐れていた二大政党政治の弊害が顕著になってきた」(「朝日」二月二十八日付名古屋版)という声があがっています。

 ライブドア、耐震強度偽装、米国産輸入牛肉、防衛施設庁談合の各問題を「四点セット」と称し、国会論戦で争点化しようとしていた民主党。しかし、「偽メール問題」での全面降伏で意気消沈気味です。

 前出の上脇教授はいいます。

 「小泉『構造改革』による国民の暮らし破壊の大問題や、米軍再編の問題など、国民の立場から野党が問うべき重大なテーマは『四点セット』にとどまらないはずだ。民主党は、同じ野党の共産党と違い、『構造改革』、憲法改定に賛成なので、追及を『四点セット』に限定したのだろう。『メール問題』はその一環だった。民主党の与党追及は、国民のために悪い政治をただすというより、一発逆転でただ(選挙で)多数をとれればいいという発想しか感じられない」

 自民党政治ときっぱり対決する「たしかな野党」の存在が注目されています。


もどる
日本共産党ホーム「しんぶん赤旗」ご利用にあたって
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 TEL 03-3403-6111  FAX 03-5474-8358 Mail info@jcp.or.jp