2006年3月5日(日)「しんぶん赤旗」

市町村に“有事”計画迫る

「国民保護」法

小学生まで訓練に動員

「非現実的想定」に自治体苦慮


 米軍の先制攻撃戦争などに自治体・住民を総動員する有事法制の具体化が進行しています。政府は有事法制の一部である「国民保護」法に基づき、都道府県に続いて全市町村に〇七年三月までに「国民保護」計画をつくるよう求めていますが、疑問や批判、戸惑いの声が上がっています。

実証実験と避難

 「落ち着いて行動を!」。帽子をかぶった小学生のイラスト入りの広報が、千葉県富浦町の各家庭に配布されました。

 同町では七日、千葉県との共催で、弾道ミサイル発射などの緊急情報を伝達する「全国瞬時警報システム」(J―ALERT)の実証実験と避難訓練が四百人規模で行われます。

 「国民保護」法では、戦時の際の住民への「警報」「避難」「救援」などの実施を定めており、自治体がその「責務」を負います。

 同法に基づいての実動訓練はすでに福井県などで行われましたが、富浦町では初めて小学生が動員されます。

 訓練の内容は、(1)「国籍不明のテロリスト数名が、大房岬突端に上陸するのが目撃・通報された」という情報をJ―ALERTで受信(2)拡声器から有事サイレン(3)消防・県警・陸上自衛隊による避難誘導(4)住民・児童のバスによる避難――といった流れです。

 小学生は、授業時間にあたる午後一時三十分に富浦小学校から町立体育館に避難します。

日米演習を視察

 周辺に軍事基地や重要施設が存在しない房総半島南端部の町で、「国籍不明のテロリスト上陸」という設定自体が非現実的な上、小学生まで動員することに、政府内からも「ちょっとどうかなと思う」(関係者)という声も上がっています。

 「ぜひ、訓練を見ていただきたい」

 昨年十二月、九州・沖縄各県の「国民保護」担当者に、陸上自衛隊西部方面隊(総監部・熊本市)から、今年一月下旬に行われた日米共同指揮所演習「ヤマサクラ」の案内が届きました。

 日米共同演習の自治体への正式な案内は初めてです。各県は「国民保護計画の参考に」との考えから職員を派遣しました。しかし視察できる範囲は限られており「ほとんど役に立たなかった」という感想が相次ぎました。各自治体は陸自側の真意を測りかねています。

 政府は〇四年十月、「『国民保護』基本指針」を作成。これに沿って各都道府県で「国民保護」計画づくりが進んでいます。消防庁によると、一月末時点で二十三道府県で作成されました。

地方自治に介入

 政府は各市町村に対しても、「国民保護」計画づくりの諮問機関となる「国民保護協議会」設置条例案を三月中に提出するよう求めています。同協議会への自衛隊員の参加も促しており、地方自治への軍事の介入を強めようとしています。

 一方、東京都国立市では「国民保護」法に計画作成の期限が明記されていないことから、〇五年度は条例案を提出しません。来年三月までに「総合防災計画」を作成し、そのなかで「有事」の対応も検討する方針です。

 政府の「基本指針」によると、「有事」(=武力攻撃事態等)として想定しているのは(1)着上陸攻撃(2)航空攻撃(3)弾道ミサイル攻撃(4)ゲリラ・特殊部隊による攻撃です。加えて、テロ攻撃も対象になります。

 しかし、政府自身、(1)(2)については「ほとんど想定されない」との見解を示しており、(3)(4)についても現実性が疑問視されています。

 国立市の上原公子市長は昨年十二月の市議会で「非常に非現実的なものに対応を迫られており、全国の自治体は苦慮している」と答弁しました。


狙いは米の戦争への動員

 〇三―〇四年にかけて自民・民主・公明各党の賛成で成立した有事法制は、武力攻撃事態法、「国民保護」法、米軍支援法、特定公共施設利用法などで構成されています。

 有事法制は、日本に直接攻撃が及んでいない事態(武力攻撃予測事態)でも発動されます。政府は、米軍が先制攻撃戦争を行った場合でも発動されるとの見解です。

 動員対象は全都道府県と市町村、民間企業・団体(指定公共機関)、住民にまで及びます。

 米軍は、有事法制で「米軍支援」を法制化したことを「日米同盟の重要な礎石になった」(在日米軍司令部)と評価しています。


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