2006年2月27日(月)「しんぶん赤旗」

不安的中欠陥だらけ

米産牛肉輸入問題


 輸入再開後一カ月でふたたび全面禁輸となった米国産牛肉。日本政府による米国の食肉処理施設「査察」でも、米国産牛肉の輸入再開の日米合意でも、国民の安全より米政府の要求を最優先する――こんな無責任な小泉内閣の姿勢が、日本共産党の国会論戦でくっきりと浮かび上がりました。(宇野龍彦)


輸出条件知らなかった

米国

 「違反を起こした食肉業者と米農務省の検査官は、日本向けの輸出条件を知らなかった」―米農務省は十七日に公表した調査報告書で、今回はあくまで「例外的なケースであるという判断に確信をもっている」と釈明しました。

 調査報告書は約五百ページにのぼるものです。このなかで、ニューヨーク州の食肉業者は、背骨つき牛肉の出荷違反だけでなく、(1)関連会社のオハイオ州の卸食肉業者から、出荷資格がない内臓肉など雑肉を出荷した(2)対日輸出認定を受ける前に処理した牛肉だった――こうした違反を何重にも犯していました。なぜ「日本向けの輸出条件を知らなかった」のか。

 米農務省はどういう責任を負っているのか、米政府の調査報告書では明らかにされていません。

 輸入時には内臓肉の月齢判定は不可能です。日本側の抜き取り検査で、輸入条件に反する背骨つき牛肉が見つからなければ、こうした数々の違反行為は見逃されたままでした。

別の食肉処理場も違反

 BSE(牛海綿状脳症)危険部位の背骨つき米国産牛肉を日本へ輸出した米国の食肉業者のほかにも、日本向け輸出プログラム違反をおこした米国の食肉処理施設があり、米農務省は十四日に輸出認定リストから除外していました。

 問題の食肉施設は、米大手食肉業者のスイフト・ビーフカンパニー社のネブラスカ州グランドアイランドにある食肉処理場。生産記録で生後二十カ月以下の月齢確認できる農場を指定する手続き違反をおこしていました。輸入手続きがすんだ三十・七トンが日本に輸入されていました。

 厚労省は「詳細は米側に照会中で、直接生産記録は確認していない。昨年十二月に査察をおこなった十一の食肉処理施設にも入っていなかった」(同省監視安全課)といいます。

 背骨付き牛肉のほかに内臓肉輸出の違反があったうえ、別の大手業者が日本向け輸出プログラム違反をおこしていたことは、システム全体の欠陥を裏付けるものです。

日本向けの作業は見ず

日本

 BSE(牛海綿状脳症)危険部位の背骨つき牛肉輸入をめぐって開かれた十五日の衆院予算委員会の集中審議。日本共産党の高橋千鶴子議員の質問に、川崎二郎厚生労働相は答弁に窮し、審議が一時中断する場面がありました。

 米国でのBSE危険部位除去などの条件順守の「事前査察」をおこなうという閣議決定をほごにして、輸入再開後に実施された米食肉施設への査察について、高橋議員はこう質問しました。

 「輸入再開前だと日本向け(牛肉の危険部位除去の)ラインが動いていないから順守状況は確かめられないと、(政府は)説明してきた。(再開後)日本向けのラインを実際に見て確認できたのか」

 川崎厚労相は「実際に現場で、作業が実施されているところを、確認いたしてまいりました」。

 ところが、厚生労働省は一月十九日の食品安全委員会プリオン専門調査会で「実際に日本向けのもので脊柱(せきちゅう)を除去しているところは今回見れなかったので、次回見てこようと考えています」と報告していました。

 「食品安全委員会にうその報告をしたというんですか」と、議事録を突きつけて追及する高橋議員に、とまどう川崎厚労相。処理している牛肉が米国内向けか日本向けかの確認については「そこは現認していなかった」とのべ、再開後の査察で日本向けの牛肉の危険部位除去作業を見ていなかったことがはっきりしました。

 肉質による生後二十カ月以下の月齢判定でも、査察した十一施設のうち四施設で「現場を見ることができなかった」(中川昭一農水相)ことも判明しました。

 その一方で、日本から牛肉を米国へ輸出する施設は、米政府が毎年査察を実施してきました。高橋議員は、日米で対等な条件になっていない事実をつきつけて、「日本と同等の基準で対策をもとめていくべきだ」と迫りました。

 小泉首相は「(日本と)米国と安全基準が違いますから、(米政府は)日本の安全基準にしたがってもらわなければならない」と答弁しました。

国民の安全より米優先

 食肉処理施設の「査察」方式が米国とカナダと大きく異なり、米国には手ぬるいことも浮き彫りになりました。

 農水・厚労両省は、昨年十二月の輸入再開にあたって、カナダとは「立ち入り検査」することを合意しています。ところが、米国政府とは食肉施設の立ち入り検査ではなく「代表的サンプルを通じて」、「記録原簿を査察することができる」というゆるい「査察」方式で合意したのです。

 日米で締結した「家畜衛生条件」では(1)米政府が指定した施設の代表的なサンプルを通じて米国農務省のシステムを評価する(2)食肉処理施設の衛生条件(HACCP)と、衛生標準作業手順(SSOP)の記録原簿を査察することができるというもので、個別施設の立ち入り検査は明記されていません。

 日本共産党の紙智子参院議員は「国民の安全より米国の再開要求を優先させた日米合意だ」と批判し、「なぜ米国の査察とカナダの査察が違うのか」「米国に甘いこのような査察を続けるのか」と追及しました。


国会質問へ反響

 「国会中継を見ました。ほかの委員にはない論点をついて新鮮でした。日本は米国と対等ではない。言いなりではないか、これでは困るということがよくわかった」(男性からの電子メール)

 「米国以外の国々へは、食の安全にきわめてきびしい長期間にわたる査察をしている事実にびっくりしました。米国にたいして対等でない実態はよくわかりました」(広島県の女性からのメール)

 「NHKで見た。米国と日本と検査のやり方も違うというのは、不公平じゃないか」(男性からの電話)


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