2006年2月18日(土)「しんぶん赤旗」

ワールドリポート

ハリウッドから韓流守れ

銀幕スター・監督らデモ

声集めれば政府動かせる


 米国ハリウッド映画の大幅流入に抗し「韓国映画を守れ」と韓流スターや映画監督らが、デモを続けています。ソウル市内の「一人デモ」の現場は、デモを見ようと押しかける群衆や取材陣で、黒山の人だかりです。(ソウル=中村圭吾)


 「市民のみなさん、たくさん写真を撮ってネットに載せてください」。プラカードを持った映画「マラソン」のチョン・ユンチョル監督(35)が呼びかけると、携帯電話を手にした人々から一斉に「ネー(はい)」の声が上がりました。

 隣の女優カン・ヘジョンさん(24)も、ビラを手に、「小さな声も集まれば大きな声になり、政府も動かすことができます。一緒に守りましょう」と訴えます。「頑張ってー。ファイティング」の声援が飛びます。

■保護政策を縮小

 映画人が訴えているのは、韓国映画の発展を支えてきた振興策「スクリーンクオータ制度」の維持です。

 韓国政府は一月、米国との自由貿易協定(FTA)交渉をすすめるなかで、映画館に国産映画を一定日数上映するよう義務付けている制度の大幅縮小を決定しました。一九九〇年代後半からこの制度の縮小を強く求めてきた米国側に大幅譲歩した格好です。

 これにたいし韓国の映画界は「米国の文化侵略だ」「主権を踏みにじる」と反発。銀幕のスターがデモに繰り出す展開となりました。

 氷点下一〇度を下回り、数日前の雪が残る八日、光化門に、イ・ビョンホンさんらの俳優や監督、スタッフら二千人が、映画制作を中断し、地べたに座り込みました。

 俳優チェ・ミンシクさん(43)は前日、カンヌ映画祭(二〇〇四年)で授与された勲章を政府に突き返しての参加です。

 「これは映画人自身の生活のためのたたかいじゃない。映画、文化を守るための米国とのたたかいだ」と強調しました。

■「米国の独占に」

 韓国映画は、九〇年代初頭、国内市場のシェアが15%台(九三年)に落ち込んでいましたが、〇五年には市場の55%を確保するまでになっています。現在公開中の「王の男」も観客数一千万人を突破し、「ブラザーフッド」(〇四年)の興行記録千百七十万人に迫る勢いです。

 こうした映画界の反発に対し、政府は、映画産業の発展をあげ、「発展にみあった合理的な検討が必要」と主張。また全国経済人連合会など財界を代表する五団体会長も「スクリーンクオータ制が映画産業の育成に寄与したのは事実だが、国全体の利益を考慮しなければならない。制度の縮小について映画人、国民の前向きな姿勢と理解が望まれる」との声明を発表しています。

 しかし映画人は「国産映画のシェアが50%を超えているといっても、残りはハリウッド映画だ。開放という名でのクオータ制縮小の強要は、米国による映画独占を意味する」(俳優チャン・ドンゴンさん)と反論します。

 チョン・ユンチョル監督は「スクリーンクオータ制は、私たちの映画のマジノ線だ」と訴えます。

 同監督は、五百万人を動員した自身の「マラソン」ですら、最初からの興行成功は予想されなかった、「クオータ制度がなければ、劇場確保も難しかった作品です」といいます。「観客数が一千万人を突破したからといって、制度をなくせば米国の映画がたくさん入ってくる。一度なくせば、取り返しがつかない」と市民に語りかけます。

■メキシコの例は

 彼らの危ぐには、根拠があります。北米自由貿易協定(NAFTA)に参加したメキシコが、自国映画保護制度を後退させた結果、年間約八十本の自国映画が、十数本に急落したという例があるためです。

 各国の映画団体や文化団体も韓国映画人の運動を支持しています。日本やカナダの映画監督をはじめ、十二カ国二十八団体が激励のメッセージを送ってきているといいます。

 「どうしてデモに?」というメディアの質問に、カン・ヘジョンさんは、「映画人の一人として、また観客の一人としてここにいます。私の信念とアイデンティティ、愛する韓国の映画を守るためです」と答えました。


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