2006年2月10日(金)「しんぶん赤旗」
デンマーク紙 風刺画掲載
背景に反移民感情
【ロンドン=岡崎衆史】イスラム教の預言者ムハンマドを風刺した漫画を最初に掲載したのはデンマークのユランズ・ポステン紙でした。こうした問題をメディアが取り上げやすくした背景には、失業やテロ、犯罪をイスラム教徒など移民の増加と結びつけ、規制を求めるデンマーク社会の傾向があります。
■極右の党が躍進
デンマークの人口は現在約五百四十万、そのうちおよそ二十万人がイスラム教徒です。これまで積極的に亡命者や難民、移民を受け入れてきた結果でした。
その一部が、失業や犯罪の温床となっているとみる人も増え、とくにグローバル化が進んだ九〇年代後半以降デンマーク国民の目が厳しくなります。イスラム教徒のなかには、デンマーク社会が重視する民主主義や寛容の精神を認めようとしない部分があるといった警戒もありました。
〇一年九月の米同時テロでこうしたイスラム批判が一気に拡大。直後の〇一年十一月の選挙では、移民規制を強く訴えた極右の国民党が躍進しました。
選挙後誕生したラスムセン政権は、国民党の閣外協力を受けつつ、移民の家族呼び寄せの制限やテロを扇動する演説の非合法化、デンマーク語の習得の義務付けなどを実施。メディアのイスラム批判はこうしたデンマーク社会の変化を反映していました。
■掲載紙が“謝罪”
風刺画に反発したデンマークのイスラム教徒の一部は、サウジアラビアやエジプトなど中東各地で問題を有力者に訴え、これがサウジアラビアやリビアの駐デンマーク大使召喚やデンマーク製品のボイコット運動にまで発展。ユランズ・ポステン紙は一月末、「多くのイスラム教徒を傷つけたことを謝罪する」との声明を出しました。
ユランズ・ポステン紙が十二の風刺画を掲載したのは昨年九月末。大きな問題になったのは、ムハンマドが爆弾のついたターバンを頭に巻いている絵でした。
預言者とテロリストを結びつけるこの風刺画については、同紙のカルステン・ユステ編集長も「特にこの絵に非常に多くの人々が傷つけられた」と認めています。
■担当編集委員は
この風刺画を掲載した側の言い分はこうです。
「いかにイスラムの問題の報道を私たちが自主規制してきたのかについて論議を巻き起こすことだった」。同紙で風刺画掲載を決めた担当の編集委員フレミング・ローズ氏は英オブザーバー紙(二月五日付)にこう語っています。
デンマーク人のコメディアンがキリスト教の聖書は自由に笑いのネタにできるけれども、イスラムの聖典コーランについてはそれができないと語ったこと。子どもの絵本作家がムハンマドを描くイラスト画家を見つけられなかったこと。こうしたことを知り、反発を恐れて作家や芸術家、劇場関係者が自己規制している社会問題で一石を投じたというのです。
掲載後の昨年十月半ば、二人の画家が殺害予告を受け、これがメディアで報道されるとデンマーク内のイスラム批判がさらに拡大しました。
事態が全世界的な問題に拡大するなかで、掲載への反省とともに、異なる文明の相互理解について、真剣な議論を求める声がデンマーク国内でも起きています。