2006年2月8日(水)「しんぶん赤旗」

EUが対策会議 抗議デモ収まらず

風刺画問題


 【パリ=浅田信幸】イスラム教の預言者ムハンマドの風刺漫画掲載をきっかけとする抗議デモはケニアなど東アフリカ諸国からアフガニスタンにも広がるとともに、イスラム世界と欧州の対立という様相を強めています。事態の進展に懸念を深める欧州連合(EU)は六日午後、二十五カ国の大使会議を開いて善後策を協議。しかしスポークスマンが「対話と相互理解」を訴えただけで善後策に妙案はなく、対応に苦慮しています。

 抗議デモの最大の標的となっているのは、昨年九月末に最初に風刺漫画を掲載した新聞が出たデンマーク。今年になって二番手、三番手として追随する新聞が現れたノルウェーやフランスも対象です。

 シリアにあるデンマークとノルウェーの大使館が放火された四日、仏大使館にもデモ隊の一部が押し入り、たまたま大使が出勤していて警備体制が整っていたため難を免れました。パレスチナのガザ地区では同日、EUの欧州委員会事務所が改めて襲撃され、イランの首都テヘランでは六日、オーストリア大使館が数百人のデモ隊に襲われています。

 デモの過激化とともに、テロを誘発する呼びかけも現れています。英国で解散させられたイスラム過激組織「アルムハジルーン」の元指導者、オマル・バクリ師は六日、BBCラジオとのインタビューで「預言者を侮辱した者は誰であろうと罰せられ、処刑されなければならない。それがイスラムの法だ」と述べました。

 こうした事態に、EU議長国オーストリアは六日、中東関係諸国にEU市民の保護を要請。一方、デンマーク政府はアラブ十四カ国への旅行を控えるよう国民に勧告しました。

 他方、イランは六日、デンマークとの貿易を事態収拾まで打ち切る措置を発表しました。

 事態の進展に憂慮し「暴力停止、対話復活」の呼びかけも各方面から強まっています。

 キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、仏教、ヒンズー教、シーク教など欧州各国に根を下ろしたすべての宗教組織の代表者からなる欧州宗教評議会は六日、オスロで執行委員会を開き、コミュニケを発表。「信者にとって神聖なものを冒とくする言論の自由の悪用」を非難するとともに、「神の名で行われている暴力テロ行為を終わらせるため、すべての宗教指導者がみずからの権威を行使する」よう訴えました。


■抗議は法守って

■欧州のイスラム団体

 【ロンドン=岡崎衆史】欧州と英国の有力イスラム団体が六日に共同声明を出し、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺漫画を欧州各紙が掲載したことに対し、「挑発的な行動」と非難する一方で、暴力などの非合法な抗議行動は慎むよう呼びかけました。

 声明は、「預言者について出版された風刺漫画は(表現の)自由の限界を超え、他者の信仰を侮辱し、感情を害する領域に達している」と述べ、デンマーク紙に始まり、欧州各紙が預言者の風刺画を掲載したことを批判。その一方で、「賢明さを保ち、法を守って怒りを表明し、抗議を行うよう同胞のイスラム教徒に呼びかける」と訴えました。

 声明はまた、欧州議会と英国政府に緊迫した状況を沈静化するために努力するよう求めました。

 声明は、欧州イスラム組織連盟、欧州イスラム・フォーラムなど欧州のイスラム組織と、英イスラム協会など英国の組織が共同で発表し、英イスラム評議会が賛同しました。

 英イスラム評議会は三日に独自の声明を出し、「イスラム教徒の間の否定的かつ過激な対応を引き起こそうとして、何者かがこの状況を利用しようとすることが大いにありうる」として、イスラム過激派が預言者風刺で高まった反西欧感情をテロや暴力拡大などに利用する可能性を示唆。同評議会のイクバル・サクラニエ事務局長は、「英国のすべてのイスラム教徒に対して、挑発に乗せられないよう警戒を呼びかける。どんな場合も平和的で尊厳を失わずに行動しなければならない」と述べ、イスラム教徒に「挑発への最大限の自制」を呼びかけました。

■暴力で応えるな

■アナン国連事務総長

 国連のアナン事務総長は五日、イスラム教預言者ムハンマドの風刺漫画への怒りから発した襲撃事件について、報道官を通じて声明を発表。怒るイスラム教徒の苦痛はわかるが、暴力で応えるべきではないとの見解を明らかにしました。

 アナン氏は、過去数日間にシリア、レバノン、その他の国で発生した大使館攻撃をはじめとする脅しと攻撃に懸念を表明。風刺漫画の掲載をイスラム教徒が宗教への侮辱だとする怒りの感情は理解するとしながらも、「そうした怒りで暴力を正当化することはできない。とりわけ何の責任もない人々に向けた暴力は正当化できない」と指摘しました。

 イスラム教徒は風刺漫画を掲載したデンマーク紙が謝罪しているのを受け入れ、「慈悲と思いやりを重視することで有名な宗教の真の精神に立って」行動するよう訴えました。関係する全当事者、特に政府や当局が「緊張の緩和に全力をあげ、緊張を増幅するような行動や声明は控えるよう」呼びかけました。

 その上でアナン氏は「いまや、いつにも増して、信条・信仰や社会のいかんを問わず、善意のあるすべての人が、対話と相互尊重の精神に立って手を携えるべきときだ」と述べました。


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