2006年1月30日(月)「しんぶん赤旗」

水道を返せ(1)

「官から民へ」とのたたかい

転売重ね多国籍企業の手に

突然、74%値上げ申請

米・フェルトン 上


 ウオータービジネス―。人間の命の源である「水」を、もうけの源にしようという企てが世界各地でおきています。しかも「小さな政府」「官から民へ」を唱える新自由主義の流れがこれを加速しています。水道民営化をめぐる矛盾とたたかいをリポートします。

 (フェルトン<米カリフォルニア州>=山崎伸治 写真も)


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 米国では、水道事業の約85%が公営です。歴史的に見れば、十九世紀末から二十世紀初めにかけて地域の篤志家や資産家など民間の事業体が起業し、その後自治体に移行したものがほとんどです。

 ところが一九九〇年代後半になって、水道事業に欧州の多国籍企業が参入。米国内の「小さな政府」の議論にも乗って、水道事業を金もうけの対象にしようとする動きが強まりました。

 樹齢二千年に及ぶセコイアの森の広がるカリフォルニア州サンタクルーズ郡の小さな町フェルトン。人口三千二百五十人のこの町で二〇〇五年七月、一つの住民投票が行われました。

 多国籍企業の子会社が所有する町の水道事業を町民の手に取り戻すという提案の是非でした。結果は74・8%という圧倒的な賛成多数となりました。

■「なにこれっ」

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(写真)水道事業管理を地元住民の手で行うための住民投票に賛成を促すビラ

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(写真)公営化した場合の優位性を説明するビラ

 話は二〇〇二年九月にさかのぼります。

 「何これって思いましたよ」―フェルトンで当時、商工会の会長を務めていたコニー・バーさんは、水道料金の請求書を見て驚きました。

 フェルトンの水道事業は一八六八年に町が開かれて以来民営で、一九六一年からは「シティズン・ユーティリティーズ」という会社が所有していました。ところが水道料金の請求書に「カル・アム」という新しい会社の名前があったのです。

 カル・アム社は米国の水道会社アメリカン・ウォーターのカリフォルニア州にある子会社です。フェルトンの水道事業は二〇〇二年一月、カル・アム社に売却されていました。

 その直後、今度はそのアメリカン・ウォーターを英国のテムズ・ウォーター社が買収すると発表します。同社はドイツにある世界第三位の水道会社RWEの子会社。つまりフェルトンの水道事業は多国籍企業の下におかれてしまいました。

 一連の売買の話は町民にはまったく知らされていませんでした。「だれも請求書の上の方(にある会社名)なんか見ませんよ。見るのは下の数字(請求額)だけ。だから気づかなかった」(バーさん)。ところがその「数字」が町民を驚かせることになります。

 米国では民間の水道会社が料金を変更する場合、州の公益事業委員会に申請しなければなりません。カル・アム社はなんと74%もの値上げを申請したのです。

 この異常な提案を受けて〇二年十月、フェルトンで住民集会が開かれ、百五十人の町民が参加しました。そこで圧倒的多数の人たちが水道事業の管理を地元住民の手で行うことに支持を表明しました。

 それをきっかけに、住民の有志が水道事業を買い戻す運動を始めます。グループの名前は「地元所有の水道友の会」。略称のFLOWは「水の流れ」という意味です。

■サービス低下

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(写真)カリフォルニア州フェルトンの町

 カル・アム社がフェルトンの水道事業を買い取った際、簿価の167%も支払っています。ドイツの多国籍企業RWEがアメリカン・ウォーター社を買収した際も四割増。水道事業はそれだけ投資しても見返りがあるということでしょうか。

 「民間の水道事業者の間には、米国の水道料金は低すぎるという考え方があるんです」と解説するのはビクトリア・カプランさん(23)。水資源の保護を訴える民間団体「フード・アンド・ウォーター・ウオッチ」の活動家です。

 「ウォール街では、水道料金を引き上げる余地があると考えられています。利用者はすでに十分な料金を払っているというのに、もっと料金を上げれば利潤が得られるというわけです」

 そうした考えで行われた水道事業の民営化で何が起きたか。

 第一は料金の値上げです。カプランさんは、「ペンシルベニア州では、アクア・アメリカ社の経営する水道が、公営よりも四倍も料金が高くなっています」といいます。

 金のかかる施設は、改善に消極的になるため、水質にも問題が生じます。ジョージア州アトランタでは、一九九八年からフランスのスエズ社の子会社ユナイテッド・ウォーターが水道事業を請け負いましたが、「蛇口から赤い水がでるなど問題が続いたため、アトランタは契約の破棄を余儀なくされました」。

 第二にサービスの低下です。フェルトンFLOWのジム・グレアムさん(44)は、町の水道が買収されてから、「利用者が電話をかけると、イリノイ州のセンターにつながるようになりました。でもオペレーターはフェルトンのことなんかわからないからあてにならない」といいます。

■労働者も犠牲

 多国籍企業の買収によって不利益を被っているのは利用者だけではありません。

 「RWEに買収された結果、バージニア州では非組合員の三分の二が解雇されました。全米では数千人になります」

 こう告発するのは、アメリカン・ウォーター社のバージニア州の子会社の労組で執行委員を務めるナンシー・マクファデンさん。会社は水道工事に欠かせない設計図を扱う部門までも外注化してしまいました。

 「今年の新規採用者からは年金の保証はなく、危険を伴う仕事にもかかわらず、会社は健康保険の拡充にも応じません」

 利用者も労働者も犠牲にしながら、利潤を追求するのが多国籍企業です。

 ところがRWEは昨年十一月、アメリカン・ウォーター社を売却することを発表しました。わずか四年で撤退。米国で思うような利潤が得られなかったからですが、どこまでも身勝手です。

(つづく)


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