2006年1月29日(日)「しんぶん赤旗」

ライブドア事件の背景に何が

「錬金術」可能にした規制緩和

金融ビッグバン「貯蓄から投資へ」の流れの中で


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 堀江貴文前社長らが逮捕された、ライブドアグループによる証券取引法違反容疑事件が世間に衝撃を与えています。不正な手法で株価をつり上げ、企業買収を繰り返していた疑い。「錬金術」の実態やそれを許した背景は何か―。(矢守一英)

■株価つり上げの道具

 二〇〇三年、株価が最安値に落ち込み、低迷を続けていたライブドアが目を付けたのが「株式分割」でした。

 「株式分割」は一株を複数の株に分けるもの。一時的な株の品薄状態をつくりだし、株価が上がりやすくなります。〇一年の商法「改正」で、「株式分割後の一株あたり純資産額が五万円以上」などとしていた規制が撤廃され、野放しになっていました。

 ライブドアは、合計四回、〇四年二月には最大百分割を実施。そのたびに株価は跳ね上がりました。個人投資家を市場に呼び込むため、株を購入しやすくするという目的だったはずの「株式分割」を、ライブドアは株価を上昇させて時価総額を増やすための道具にしました。

 この手法は、ライブドア関連会社も多用し、ほかの企業にも広がりました。

 東京証券取引所によると、上場会社で一・五以上の大幅な分割をした企業は、一九九二年から九九年までは二十五社にとどまっていましたが、〇五年には百二十八社に急増。ライブドアが百分割した後には、百一分割をする新興企業も現れました。

■株高マジックで買収

 株式百分割などによってライブドアの株価は高騰を続けました。〇四年一月に時価総額が九千億円を超えた同社は、これを元手に企業買収を進めていきました。

 その一つが自社株と相手企業の株式を交換する株式交換という手法です。日本では一九九九年十月の商法「改正」で解禁されました。

 買収の際の株の交換比率は、将来生み出す収益の予想などから判断して決めます。買収する側の株価が高いほど有利な比率で交換できます。現金を使った買収では資金を銀行から借り入れるという負担が伴いますが、株式交換では新株を発行するか、保有する自社株を提供するだけで済みます。

 ライブドアは〇一年以降、株式交換による企業買収を十件以上実施しています。携帯電話販売会社など、〇四年三月に株式交換で買収した四社の買収価格相当額は合計で約五十億円とされます。経常利益(連結)が約十三億円(当時)の会社が、その四倍規模の買収を一気にやってのける―これはまさに「株高マジック」でした。

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■不正見過ごした金融庁

 ライブドア事件は、不正を見過ごした金融庁など行政の責任を浮かびあがらせました。

 「最大の問題は、東京地検特捜部の強制捜査が入るまで、監督官庁の金融庁が何も手を打たなかったことだ」。東京証券取引所労働組合委員長の松井陽一さんは指摘します。

 ライブドア事件をめぐって、金融庁が役割を発揮すべき場面はいくつかありました。

 ライブドアが行った「株式百分割」や、ニッポン放送株を35%取得した際に使った「時間外取引」もその一例です。市場関係者からは、問題視されてきたにもかかわらず、金融庁・証券取引等監視委員会は動こうとしませんでした。警告するどころか、「(時間外取引は)規制の対象とはならない」(伊藤達也金融担当相=当時)と“お墨付き”を与える始末でした。

 この発言が当時、調査を始めていた証券取引等監視委員会の動きを鈍らせたとする見方も出ています。

 「市場の番人」の役割を果たさなかった金融庁。証券市場の監視体制の強化を求める声もあがっています。

 前出の松井さんはいいます。「背景には規制緩和推進の張本人であり、そのトップでもあった竹中総務相(前金融相)が堀江容疑者を選挙で応援し持ち上げてきたという構造的な問題がある。改革をいうなら、政府・金融庁こそが真っ先にその対象になるべきだ」

■自民党政治の罪

 「小泉内閣の規制緩和のおかげで、非常に商売がしやすくなっています」とは、堀江容疑者が自社の機関誌(『ライブドア』二〇〇五年冬号)で語ったことば。

 安倍官房長官も正直にこういいました。「堀江さんが仕事で成功してきたというのは小泉さんの改革の成果、規制緩和の成果」と。

 ライブドア事件の背景にあるのが自民党・小泉内閣が推進してきた「構造改革」=規制緩和万能路線であることは、当事者自身も認めるところです。

 画期となったのは一九九六年十一月。当時の橋本内閣が打ちだした「日本版金融ビッグバン」です。「フリー(自由)、フェア(公正)、グローバル(地球規模)」を掲げ、金融分野の大幅な規制緩和と銀行を中心とした金融再編が進行しました。

 国境を超えた資金の移動の自由化、証券会社を免許制から登録制に緩和、株式売買手数料の自由化…。

 その流れは小泉「構造改革」にも引き継がれ、「貯蓄から投資へ」の号令のもとで、銀行による保険商品の販売対象の拡大などいっそうの規制緩和が進められました。

 大阪証券労働組合委員長の田辺徹さんは、「規制緩和は、証券市場の拡大やインターネットによる個人投資家を増やす一方で、お金がお金を生む、いびつなシステムをつくり出していった」と振り返ります。

 そうした流れに乗ってのし上がってきたのがライブドアです。

 自著で「人の心はお金で買える」「人間を動かすのはお金」(『稼ぐが勝ち』)と拝金思想をあらわにしていた堀江容疑者。

 彼らが駆使した、金が金を生む手口―株式分割や株式交換は、商法の「改正」によって与えられました。

 日本共産党は、こうした規制緩和に一貫して反対しましたが、モラルとルール破壊の土壌をつくった自民党政治の罪は深いものがあります。

 「日本版金融ビッグバン」は、千四百兆円にのぼる日本の個人金融資産を市場に誘導したいアメリカと日本の財界・金融業界の強い要望を背景にしたものでした。株式交換による企業合併や株式分割の規制撤廃などもアメリカと日本の財界の要望でした。

■金融分野の規制緩和関連の動き

 1996年11月 橋本内閣が「日本版金融ビッグバン」を発表

 1998年4月 新外為法により為替取引が自由化、海外での預金口座開設が自由化

    12月 銀行窓口での投資信託販売開始

       「金融システム改革法」施行 株式取引の抜本的規制緩和(証券業・投信委託業が免許制から登録制に移行、取引所集中義務の撤廃)

 1999年8月 株式交換の解禁など商法の一部「改正」成立

    10月 株式売買委託手数料が完全自由化

    11月 東京証券取引所に新市場「マザーズ」開設

 2001年4月 小泉内閣発足

       金融商品販売法施行

    6月 商法の一部「改正」により株式分割の規制撤廃

 2002年4月 定期性預金のペイオフ解禁(金融機関破たんの場合、元本1000万円と利子分しか保証されない措置)

    10月 銀行による保険商品の販売対象が拡大

 2004年12月 「金融改革プログラム」発表(「貯蓄から投資へ」の流れ加速うたう)

 2005年6月 会社法により合併会社への対価に外国株の利用も可能に

    10月 郵便局で投資信託の販売開始


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