2006年1月20日(金)「しんぶん赤旗」

米公民権運動指導者

キング牧師の夢 どこに

米大都市 学校の「人種分離」進む


 【ワシントン=山崎伸治】一月十五日は米公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング牧師の誕生日。米国ではそれを記念して、毎年一月の第三月曜日が祝日になっています。

 いつの日にか奴隷と奴隷主の子孫が「同じテーブルに向かい腰掛ける」――とは有名な「私には夢がある」演説の一節。ところがかつてすすめられた学校の人種差別廃止が、いま米国の都市部で後退し、「新たな人種分離」とも言うべき事態が進んでいます。

■『国の恥』が告発

 四十年以上にわたって教師、ジャーナリストとして都市のスラムの学校と子どもの状況を告発し続けているジョナサン・コゾル氏が昨年秋、出版した『国の恥』は、そうした深刻な実態を告発しています。

 同氏がそのなかで紹介するのが、ハーバード大学の「市民権プロジェクト」による調査結果。たとえばカリフォルニア、ニューヨーク両州では、白人が多数を占める学校に通う黒人はいまや七人中一人にすぎません。同氏は「米国の公立学校はいまや十二年におよぶ継続的な人種再分離の過程にある」、「九〇年代に、白人が多数を占める学校に通う黒人の生徒の割合は減ってしまった」と指摘しています。

 人種差別を撤廃する自治体には連邦政府が財政支援を施していましたが、レーガン政権が一九八一年に廃止。連邦政府による積極的な差別撤廃の措置はなくなってしまいました。

■白人家庭は郊外へ

 そうしたなか、中産階級の白人家庭が郊外に移り住み、大都市の中心部に取り残されたのは、貧困層の黒人、ヒスパニック。政府が教育予算を削減するもとで、寄付などで不足をまかなえる裕福な家庭の子どもが通う学校と、そうでない貧困層の通う学校では、生徒一人当たりの教育予算にも差がでています。

 コゾル氏はニューヨーク市近郊の例を紹介しています。二〇〇二―〇三年に、黒人、ヒスパニックが生徒の9%を占めるマンハセット地区(ロングアイランド州)では、生徒一人当たりの教育費は二万二千三百十一ドル(約二百六十万円)。それに対し、72%にのぼるニューヨーク市では一万一千六百二十七ドルと半分です。

 「本当に人種分離がすすんだ学校を米国でいま見たいなら、マーティン・ルーサー・キングかローザ・パークスという名前の学校から始めればよい」―コゾル氏はそうした学校関係者の声を紹介しています。

 一九六〇年代終わりから七〇年代にかけて人種差別を廃止した学校は、そのことを記念してキング牧師のほか公民権運動のきっかけをつくったローザ・パークス、黒人初の大リーガーのジャッキー・ロビンソン、黒人歌手ポール・ロブスンなど、差別とたたかった人たちの名前をこぞって学校名に選びました。

 それから三十年後、大都市の中心にあるそうした名前を冠する学校ほど、人種分離が進んでいるといいます。そんな皮肉な実態をコゾル氏は、「死者を冒涜(ぼうとく)するもの」と批判します。


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