2006年1月4日(水)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

私の夢、ビデオ記者

イラク拘束者取材し上映行脚

橋爪明日香さん(青山学院大4年)


 一昨年、イラクで起きた日本人拘束事件が一人の大学生を変えました。青山学院大学四年生、橋爪明日香さん。事件後、拘束された高校生(当時)、今井紀明さんを取材、ドキュメンタリービデオをつくり、昨夏「日本千人対話の旅プロジェクト」と題して全国を一カ月間一人旅しました。ビデオジャーナリストになりたい―。小さなころからの夢を追い求め、走り続けています。(塚越あゆみ)


 大学三年の四月、橋爪さんはインターネット放送局のボランティアカメラマンとして、拘束された今井さん(当時18歳)の取材に携わりました。事件の翌日、釈放を求めて首相官邸に詰めかける同世代の若者を目の当たりにします。「こんなに頑張ってる人がいるんだ」

■おかしな日本

 今井さんらは救出され、帰国。しかし、待っていたのは、記者会見での罵声(ばせい)やマスコミでの“自作自演”“自己責任”の批判のシャワー。イラクの本当の姿を知らせようとしていた人たちがなぜ―。現実とテレビ報道のあまりの違いに、橋爪さんはショックを受けました。真実が報道されないことに悔しさがこみ上げます。「日本はおかしいと本当に思った」

 平和運動や集会、デモがあることも事件後初めて知りました。いてもたってもいられなくなり、「あたしができることは普通の十八歳の今井君の素顔を撮ってみんなに見せることだ」と。それから撮影に半年、編集に八カ月かけ十三分間のドキュメンタリービデオを完成させました。

■1日に1人は

 ビデオが完成したのは八月四日の朝。その日のうちに出発しました。目標は「一日一人は話す」。

 深夜、大宮駅前でストリートミュージシャンにビデオを見てもらいました。「無関心な人に見てほしい」

 路上でノートやチラシ、写真を並べ、ビデオカメラの小さなモニターにスピーカーをつけて上映するとだんだん人だかりが。「楽しくして興味を持ってもらって、社会問題を知るきっかけになればいいと思う」と橋爪さん。

 事件は良くないイメージの人が圧倒的でした。「あいつらは人に迷惑かけたんだ」とののしる人も。新潟県で中年男性に批判されました。話をじっくり聞いてからビデオを見てもらい、感想を聞くと、「被害に遭われた方々の気持ち、よくわかります」と意見が変わったのです。

 「主張してるだけじゃ相手にされない。『あなたはどう思いますか』ってまず相手の話をじっくり聞くの。そうするとみんなたくさんしゃべってくれる」

 さまざまな方法でビデオを上映しました。公園でプロジェクターを使って壁に投影、音楽やお酒も用意しフリーマーケットも織り交ぜた「ストリート上映パーティー」。NPOや一般家庭、オフィスやカフェギャラリーで「上映&対話の会」。ネット上で上映し、ブログで対話…。共通点は「参加型」です。

■成長した自分

 一カ月で三百人と対話し、橋爪さんは、自分が大きく変わったと思っています。今までは新聞も読まず政治や社会に無関心。遊んでばかりでした。それが勉強するようになりました。

 もう一つが家族との関係。今井さんを必死で助けようとした家族を取材し、家族の大切さを知りました。庭師の父と薬剤師の母。食卓を囲むことも少なく、それまで親が嫌いでした。事件後実家に帰った際、初めて父親とお酒をくみ交わし、政治の話もしました。今ではすっかり仲良しです。

■社会変えたい

 夏以降も大学のゼミやイベントに呼ばれ、ビデオの上映を続けています。七日には、地元・長野県東御(とうみ)市九条の会のイベントに呼ばれてビデオを上映します。

 現在卒論の真っ最中。春までにお金を稼いでビデオも編集し直して、今年の夏、再び全国行脚を計画中。「一千人の目標突破するまで続ける!」と言い切ります。

 将来の夢はビデオジャーナリスト。「みんなが周りの人や世界の人たちを大事に思えるような社会に変えていきたい」

 ―パワーの源は?

 「うーん…なんだろう」

 ―人が好きってこと?

 「あーっそうそう、それ!」。人なつっこそうな目が輝きます。

 「いつか世界も回りたい。もっとみんながびっくりするようなことをしたい」

 好奇心旺盛なチャレンジャー。挑戦は続きます。


■橋爪さんヒストリー

 【小学生】ビデオカメラが好きな普通の女の子。夢は「テレビの仕事」。

 【浪人時代】 夏、「人生何やってもつまんない」とフリーターを決意。昼は焼き肉屋、夜は居酒屋でバイトの日々。

 ある日、「このままじゃだめだ! 夢はあきらめちゃいけない」。東京に出たくて大学を受験。「奇跡的」に合格!!

 【青山学院大学入学】 秋葉原に走り、真っ先にホーム用ビデオカメラ(当時13万円)を買う。

 【大学1年】 美容関係会社でアルバイト。好成績で社内記録を抜き準社員に。大学へ行かず仕事の毎日に「やりたいことと違う」。早々と将来を決めることに怖くなり大学へ戻る。

 【大学2年】 偶然出会った知人の紹介で、ネット放送局のインターンを始める。「いろんな人に会えて楽しい」。だんだん社会問題に興味を持つように。

 【大学3年】 4.8・イラク事件。今井さんに出会う。3カ月たち、ついに「はっしーなら何でも話せる気がする」と取材に応じてもらえた。

 【大学4年】 8月、ビデオ完成!!全国行脚開始。1カ月で約300人と対話。

図

■若者、パートと賃上げ

■組合つくり、職場を変えた

■全国一般労組埼玉地本 イビサ支部

 「不満がいっぱい。悩んでいるのはみんな同じ」。若い正社員が、ベテランの準社員(パート)と一緒になって労働組合をつくり、サービス残業代などを勝ち取った労働組合があります。全労連・全国一般労働組合埼玉地方本部イビサ支部(組合員百十九人)。組合作りの中心になったのは、平均年齢が二十八歳の若者たちです。(菅野尚夫)


 職場、株式会社イビサは、埼玉県川口市に本社がある女性用ハンドバッグをつくる会社です。正社員が百人。パートなどの非正規社員を含めると約三百人を超える会社です。売り上げは埼玉県内で一位、全国でも二位。全国販売を展開する優良企業です。

 毎日夜十時、十一時までの残業。しかし、残業代が支払われるのは月四時間分だけでした。

 「不満はいっぱいありました。けど…。どうしたらいいのか分からなかった」。労組結成までの経過を執行委員の高橋蔵央さん(25)はそう切り出しました。

■迷いと「覚悟」

 インターネットで「労働相談」をしてもらえるところを調べると、埼労連(全労連加盟の埼玉県労働組合連合会)のホームページ。「みんなで決めてみんなで労働者の利益を守る」という紹介文が見つかりました。二〇〇三年十二月のことです。「無料ならとりあえず相談してみよう」ということになりました。

 埼労連を訪ねると、サービス残業は労働基準法に違反する「犯罪に等しい」と教えてくれました。労働組合を作ると会社と対等に話し合える団体交渉権があることなど働く者の権利について、ていねいに話してくれました。

 高橋さんは迷いました。「そこまですることなのかなぁ」「会社に好かれると優遇されるが、(組合作ったら)嫌われてクビになるのではないか」。一番迷ったことは、労組って何なのか、よく分からなかったことです。

 労働基準法や労働者と労働組合の権利などについて勉強を重ねました。その結果「黙って仕事やっていたら職場が良くなるわけじゃない。最悪の場合は、会社を辞めるつもりで組合をつくろう」と思いました。

 一昨年二月に十三人で組合を結成。「準社員(パート)の不満はいっぱいある。みんなが良くならなければおかしい」。全労連・全国一般埼玉地本イビサ副支部長の高見沢信一さんの声で、準社員のパート労働者の時給百円アップを要求しました。そして、社員に組合への加入を呼びかけました。

 会社に組合結成を告げました。サービス残業の廃止と残業代の支払い、有給休暇を取りやすくすること、男性社員の日直制度の改善、強制的な解雇や配置転換の廃止など要求書を提出しました。会社は翌日の朝礼で「これからはサービス残業は無くします」と報告しました。

■賃上げの快挙

 その年の初めての春闘では、社員平均六千二百円と準社員(パート)時給十円、嘱託社員時給二十円の賃上げや有給休暇がとりやすくなるなど実現しました。「組合つくってよかった」。賃上げは三年ぶりの快挙でした。

 組合結成から一年半の〇五年二月までに会社との交渉は五回を重ねました。その結果、サービス残業代を二年間さかのぼって三千万円が和解金として労働組合員に支払われました。

 組合員は現在、正社員二十二人、パートの準社員九十七人の組合に発展しました。高橋さんは「『引くに引けないなぁ』と心底思いました。組合員みんなの幸せそうな顔を見て、(組合活動を)ちゃんとやらなければいけないなあ」と身の引き締まる思いをしました。

 イビサ支部の組合員とともに活動してきた全労連・全国一般埼玉地本の林博義委員長は「若い正社員がパートの準社員の不満や要求に耳を傾け、一緒に話し合い、賃金や労働条件の改善のためにたたかっていることがこの組合の特徴」といいます。

 かばん材料の加工など裁断、縫製、仕上げなど製造工程に携わっている準社員の人たちは「良い仕事をしている」と、仕事に誇りを持っています。にもかかわらず賃上げは何年もされていません。ある準社員は「息子のような若い社員が私たちの要求を取り上げてくれた。うれしかった。私たちも労働組合に入って一緒に頑張ろうと思った」と話しています。

 林委員長は「組合をつくり要求を出したことで、不合理な職場の制度が改善されています。労働者の団結で働きやすい職場に変えられるという確信は大きな成果です」と話しています。


■労組が獲得した諸要求

 *男性社員の日直制度見直し、会社が代休を指定する制度を廃止、有給休暇が取りやすくなる。

 *社員平均6300円、準社員時給10円、嘱託社員20円賃上げ(2004年5月)

 *社員3000円〜1万円、準社員時給10円〜30円アップ。(11月)

 *社員の基本給が1・61%アップ。準社員10円〜30円アップ(2005年5月)


■正義感のある青年です

 全労連・全国一般労働組合埼玉地方本部の麻生寛志書記次長の話

 いい青年たちです。若者らしい正義感があり、「自分たちだけが良ければいい」などという利己的なところがない。パートで働く準社員の人たちの要求も取り上げてたたかう。学習も積極的で、まじめで、勉強することを嫌がらないし、何度も学習会を開いて、労働者の権利について自覚を深めています。

 青年労働者のなかに変化が起きています。劣悪な労働条件に泣き寝入りしないで、不満は不満として出して要求を勝ち取っていく青年がこの2、3年、増えています。

 こうした若者の組合加入は、埼玉地本の組合活動全体としても、活気を増し、将来展望を開きました。


■お悩みHunter

■回答者から年賀状

■ことしもよろしく!

■「悩み」は若者の特権

 新年おめでとうございます。

 昨年は、若いみなさんの心の琴線に触れ、私の方こそ生きる意味や人間の成長について教えられました。

 「迷い」や「悩み」は、若者の特権です。これではダメだ前進したい、自分の殻を破り成長したいと願うからこそ、矛盾が生まれるのです。それが「悩み」です。ですから、悩みは成長へのダイナモとも言えます。誠実に生きようとしている証しなのです。

 ポイントは、目を世界に広げ、人々とつながり合うこと。自分の悩みを社会や歴史のフィルターをくぐらせてみることです。すると、悩みの奥から、かすかな曙光(しょこう)が見えてきますよ。

■教育評論家 尾木 直樹さん

 法政大学キャリアデザイン学部教授。中高二十二年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。


■しなやかに生きぬく

 あけましておめでとうございます。

 いろいろな悩みに、これでいいのかと思いつつお答えさせていただきました。どなたの悩みも宝物だと感じています。悩みを持ちこたえることは、大きな力を生み出します。

 考えることこそ人間を豊かにすると思います。若さは苦しさや不安と同居しているものです。悩みながらもあきらめないで、しなやかに生き抜いてと心から願っております。

 道に迷ったら、またお便りください。一緒に寄り道しながら歩いて行きましょう。

■精神科医 上村 順子さん

 山口大学医学部卒。代々木病院、松沢病院などで勤務。99年からめだかメンタルクリニック院長。


■「今年の自分」を思う

 みなさん、明けましておめでとうございます。二○○六年がスタートしました。私は、新しい年が始まるといつもワクワクしてきます。

 今年は、自分にとってどういう年になるのか、こういう年にしたい、こういうことをやってみよう――。一年の初めに「今年の自分」を思い浮かべます。

 三年前に友達と新年会をやったとき、「今年はチャンピオンになる!」と抱負を語って、本当になってしまいました。今でも友だちから、その時のことを言われます。

 みなさんにとって、今年が飛躍の年になりますよう、心から応援しています。

■第41代日本ウエルター級チャンピオン 小林 秀一さん

 東京工業大学卒。家業の豆腐屋を継ぎながらボクシングでプロデビュー。99年新人王。03年第41代日本ウエルター級チャンピオン。


■力を抜いて踏ん張る

 新年あけましておめでとうございます。

 ますます生活しづらい日本になってまいりましたね。日本から逃げ出したいという切実な思いから、日本脱出計画を夢見ている方々も少なくないのではないでしょうか? しかし、逃げ出したところで、今の日本はなんにも変わりませんよね。

 地球上のどんな人々にとっても住みやすい国になるよう、私たち一人ひとりができることを何かのカタチにしていきましょう。

 肩の力を抜いて、踏ん張る年かもしれません。世界中の人々にとって、素敵な年になりますように。

■舞台女優 有馬 理恵さん

 「肝っ玉お母とその子供達」など多くの作品に出演。水上勉作「釈迦内柩唄」はライフワーク。日本平和委員会理事。


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