2006年1月3日(火)「しんぶん赤旗」

2006世界の表情 南米諸国

地域統合に向かう

「米国は中南米を失った」


 「左翼が中南米を覆う」。昨年十二月に行われたボリビア大統領選挙の結果に関する米紙マイアミ・ヘラルド二十四日付記事の見出しです。この選挙で、新自由主義経済からの転換を主張するエボ・モラレス氏が予想をくつがえす大量得票で当選しました。

■干渉主義に挑む

 記事は、選挙結果について「歴史的な米国の干渉主義に挑む政府を選ぶという中南米有権者の強力な流れに沿ったもの」と指摘し、「米国が中南米を失ったことはいまや十分すぎるほど明白だ」とする評論家の見解を紹介しました。

 モラレス氏の勝利を受け、南米南部共同市場(メルコスル)のアルバレス委員長はただちに、「メルコスルに正式加盟させたい」と表明。べネズエラのチャベス大統領は、両国の豊富な天然ガスを中南米各国に供給するためエネルギー分野の統合をボリビアに呼びかけました。

 地域統合構想は、南米全十二カ国が二〇〇四年十二月、南米諸国共同体の設立宣言として明確にしました。昨年、メルコスルや多国間協議などを経て、エネルギーを安定的に供給する大陸規模のパイプラインや大陸横断道路の建設に合意しました。統合推進を目的とする新テレビ局「テレスル」の誕生も注目されました。

 十一月の第四回米州首脳会議では、メルコスル四カ国とベネズエラが、米国主導の米州自由貿易地域(FTAA)交渉の再開に応じないとの立場を貫きました。アンデス共同体議長国のベネズエラは先月、メルコスルに正式加盟。両組織の統合による南米諸国共同体実現への速度が強まります。

 南米統合の構想は、十九世紀初頭に各国を独立させた英雄シモン・ボリバルの試みにさかのぼります。一九六〇年代にはラテンアメリカ自由貿易連合(LAFTA)が設立されました。九〇年代にはメルコスルが設立され、地域統合の動きが進みました。ねらいは地域市場の形成や、経済グローバル化に対応する、より大きな市場の確保でした。

■変革の風一段と

 現在進められている地域統合の構想は、米国が推進しようとしたFTAAへの反発から生まれました。経済統合にとどまらず、多国間主義や国際法にもとづく政治的協調、国民レベルの社会的統合、各国間の経済格差の縮小なども視野に入れています。統合の母体とされるメルコスル加盟国は、新自由主義経済モデルからの転換を掲げています。

 五カ国の政権与党を含め中南米の左翼・進歩勢力から成るサンパウロ・フォーラムの第十二回会議(〇五年七月)は最終宣言で、「地域統合は、発展と進歩、主権をめざすたたかいの手段であり、連帯し国民の利益を尊重する“異なるグローバル化”への根本的手段だ」と強調します。

 親米保守政権による新自由主義路線の結果に失望した国民が、選挙を通じ、米国のいいなりにならない自主、民主の国づくりをめざす政権を相次いで誕生させていることが新しい地域統合をめざす動きの背景にあります。

 それらの政権下の人口は、南米大陸三億五千万人の四分の三。十九世紀初めの独立後も米国の支配下に置かれていた状況は様変わりしました。「米国の裏庭」の汚名はもはや通用しません。

 今年は、今月十五日のチリ大統領選挙決選投票を含め、中南米九カ国で大統領選挙がおこなわれます。変革の風は一段と強まります。(メキシコ市=松島良尚)

 ▼南米南部共同市場(メルコスル)とアンデス共同体 いずれも加盟国の経済統合をめざして発足。メルコスルはアルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイが一九九一年、パラグアイの首都アスンシオンでの首脳会議で調印した南部共同市場条約により設立。現在、加盟五カ国、準加盟五カ国。メルコスル域内の貿易は原則自由。アンデス共同体は六九年に創設され、加盟国はボリビア、コロンビア、エクアドル、ベネズエラ、ペルー。


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