2005年12月31日(土)「しんぶん赤旗」

毒きのこに変身なぜ

スギヒラタケ謎のまま


 何の問題もなかった食用キノコが昨年、なぜ毒キノコに突然変身したのか―。変身キノコの名はスギヒラタケで、原因はまだ多くがなぞのまま。キノコミステリーの解明は年越しになります。


 スギヒラタケは東北や北陸で好まれてきたキノコで缶詰や瓶詰も売られていました。それが昨年秋、このキノコを食べた人の中から急性脳症になる人が続出しました。

 昨年の急性脳炎・脳症発症者は約六十人で、このうち五十五人がスギヒラタケを食べていました。死亡者は十九人に及び、発症者は腎障害者に多いのが特徴でした。

■発症しない人も

 しかし同じ腎障害者でも、発症する人と発症しない人がいました。

 秋田県の昨年度の調査によると、県内の腎不全による血液透析患者千二百五十二人のうち五百七十三人がスギヒラタケを食べていました。ところが発症したのは、十四人でした。発症する、しないの違いはどこからくるのでしょうか。

 「スギヒラタケ中毒問題の核心に迫る」と題した公開講演会が先月十二日、群馬県高崎市内の高崎健康福祉大学で開かれました。日本菌学会と同大学の主催です。

 江口文陽さん(同大学教授)は、昨年度に集めたスギヒラタケの乾燥物から抽出した物質をマウスに与える実験を重ねて毒性を確認しました。抽出した毒性物質は「分子量三〇〇〇―六〇〇〇程度の熱や酸に強いタンパク質」と報告しました。

■幾つかの説検討

 江口さんは二十五都府県から今年集めたスギヒラタケ四十一検体のうち二十二検体(十六府県)で毒性を確認、今年も毒性スギヒラタケが発生したことに注意を喚起しました。同時に注目されるのは、検体の半数近くで毒性のないキノコがあることです。毒性と非毒性の違いはどこからくるのか、江口さんはこれまで出された幾つかの説を検討してみました。

 その結果、(1)スギヒラタケの大きさには関係がなく、小さいものでも毒性があった(2)スギヒラタケの発生時期や木の種類も毒性との関係はなかった(3)毒性のスギヒラタケが発生した地域の倒木や土壌などからも農薬や重金属は検出されなかった―。

 いろいろ調べても、毒キノコに変身した経過はなぞのまま残りました。

 脳症については、東京都神経科学総合研究所の新井信隆研究員(副参事)が報告しました。

 新井さんは、血液透析中の患者で、ゆでたスギヒラタケを食べて死亡した女性(53)の解剖例を紹介しました。この病変は脳内の神経系で信号を伝える軸策(神経細胞から突起したもの)を覆う髄鞘(ずいしょう)が破壊され、信号が異常をきたす「脱髄病変と考えられる」と説明。病変は同研究所の千八百の症例とも異なり、「未報告の病変の可能性が非常に高い」と指摘しました。

 なぞ解明の研究で、今後、どんな新事実が飛び出すか、食用キノコへの復活はあるのか、行方が注目されます。(松橋隆司)

 ▼スギヒラタケ キシメジ科スギヒラタケ属のキノコ。スギなどの針葉樹の切り株や倒木に多く群生、柄がほとんどなく、子実体(かさ)は耳状で、真っ白。わかりやすく古くから食用として好まれてきました。地方によって呼び方は異なり、新潟県森林研究所の松本則行さんの調査では、秋田県で三十一、新潟県で十四もの呼び方があります。


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