2005年11月4日(金)「しんぶん赤旗」

“スパイ”衛星費5000億円に

機密を盾に歯止めなく


 日本初の軍事偵察衛星として2003年に打ち上げられた情報収集衛星の関係経費総額が来年度までに5000億円を超えることがわかりました。衛星の性能・軌道は機密とされ、支出目的を隠した予算が歯止めなくつぎこまれています。しかも、政府が偵察衛星打ち上げの二枚看板の一つにした大規模災害などへの対応は秘密保持が障害になってほとんど役だっていない状況です。

 情報収集衛星は、九八年度に十七億三千万円の研究調査費をつけたのが最初。次年度から毎年約一千億円から六百億円を投入。昨年度までに総額三千七百億円を使っています。今年度は六百二十四億円の予算で、来年度の概算要求額は六百六十六億円。総額五千二十二億円にのぼります。

■寿命は5年

 衛星は、昼間に撮影する光学衛星と夜間や曇りでも撮影可能なレーダー衛星の二基ずつの計四基ワンセットで計画しました。しかし、〇三年三月に二基の打ち上げに成功したものの同年十一月の二基は失敗、現在二基が稼働しています。

 来年度に光学衛星、レーダー衛星各一基、実証衛星一基を打ち上げる予定。衛星に寿命(五年)があるため、一基二、三百億円の衛星をほぼ毎年のように打ち上げることになります。

 来年度は打ち上げ費用に約百五億円、維持運営費に約百四十七億円を予算要求しています。

 大型公共事業は五年ごとに第三者による公開の事業再評価制度があるのに対し、情報収集衛星については、第三者による公開のチェック制度がありません。五千億円の巨大国家事業でありながら「安全保障の秘密保持」を盾に予算の大枠しか提示せず、細目はブラックボックスのなかです。

■写真未公表

 衛星が撮影した写真は公表されたことがありません。厳重な秘匿条件が壁になり、各省庁の災害担当部署では使いようがないのが実態です。内閣府の地震火山災害担当部署も「衛星データを活用したことはない」と明言しています。

 内閣官房内閣衛星情報センターの担当者は「いつどのようなデータをとっているか、どう使っているかはいえない」としています。


■解説

■防災など平和利用計画公開せず

 〇三年の偵察衛星打ち上げに際し、日本共産党の市田忠義書記局長が談話を発表しています。

 談話は「宇宙の軍事利用に足を踏み出すことは、公開を原則としてきた宇宙の平和利用に大きな障害をつくりだすことになる」と指摘。「しかもいったんこの道に踏み出したならば、今回の第一歩にとどまらず、歯止めなしに拡大する危険を強くもっている」と警告していました。

 事態は談話の指摘どおりに進行しています。

 偵察衛星は、内閣官房内閣情報調査室の管理下で、業務は内閣衛星情報センターが担当。内閣官房や文部科学省が、宇宙航空研究開発機構などの独立行政法人に発注し、そこが三菱電機などのメーカーに再発注する仕組みです。光学衛星の解像度は一メートル四方、レーダー衛星は、一―三メートル四方の物体を識別できる、と報道されていますが、性能自体が秘密です。

 警察庁が公表している「衛星秘密等の保全に関する訓令」によると秘密保全は、重要度の高い順に「機密」「極秘」「秘」の三ランク。訓令は二十条にわたって秘密管理方法や秘密期限、廃棄、運搬などの方法、秘密が漏れた場合の対応などを規定しています。

 しかし、衛星情報センターは秘密保全の三ランクも認めず、内規の提出も拒否。国会議員にも衛星機能、人事などの説明要求やセンターへの立ち入りも拒否しています。

 偵察衛星の打ち上げは、宇宙開発を平和利用に限るとした国会決議(一九六九年)に反するため、政府は各省庁に防災などの利用計画を出させて「多目的衛星」に仕立て上げました。内閣情報調査室は、その各省庁の平和利用計画でさえ提出できないといいます。

 衛星撮影した画像などの災害への利用について消防庁防災情報室は「それについては答えられない。そう答えるように内閣官房からいわれている」といいます。

 衛星メーカーの三菱電機が受注したことは公然とした事実。しかし同社は、「社の方針として受注したことも含め情報衛星についてはいっさい答えられない」とのべています。

 内閣情報調査室の担当者によると「機密を漏らせば、懲役一年以下の罰則があります」。こうしたしばりの網が公然とした事実にまでかぶせられています。

 同じ国家事業でも無駄遣いが問題になっている諫早湾干拓事業が二千五百億円、川辺川ダム計画事業が三千三百億円(国交省試算)。五千億円の偵察衛星関係費がいかに巨額な事業かわかります。その上、公共事業のように完了するわけではなく、衛星の維持管理費や、衛星の寿命に対応した新たな衛星の開発やロケットの打ち上げ費用が毎年数百億円も必要です。

 しかも衛星四基では、監視地点の上空に二十四時間衛星があるわけでなく、この監視の空白を埋めるためには「十六―二十基が必要だ」との防衛庁サイドの意見もあります。国民の目の届かない密室のなかで費用も歯止めなく拡大していく危険をはらんでいます。(松橋隆司)


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