2005年11月2日(水)「しんぶん赤旗」

鳥インフルエンザ 世界的な危機感

東南アジア62人死亡

欧州でも次つぎ確認


 東南アジアで猛威を振るっている高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1型が欧州でも相次ぎ確認され、世界的な危機感が高まっています。

 国連総長から九月末、鳥インフルエンザ流行を封じ込めるための世界戦略を策定する上級国連特別調整官に任命された世界保健機関(WHO)の専門家デービッド・ナバロ氏は、鳥インフルエンザ感染が人間の間で大規模発生する可能性を指摘、死者は五百万人ないし一億五千万人に上る恐れがあると警告しました。

 十月二十四、二十五日にはオタワで世界三十カ国の政府高官による国際会議が開催され、インフルエンザに関する国際的な情報交換の強化など十八項目の共同声明を採択しました。七日からはジュネーブでWHO、国際防疫事務局(OIE)、国連食糧農業機関(FAO)、世界銀行の共催による鳥インフルエンザに対する国際戦略を協議する会議も開かれます。

 開発途上国側は、鳥インフルエンザワクチンや抗ウイルス薬の確実な入手や分配、薬品製造に関する知的所有権についての工業先進国側の柔軟な措置を求めています。

■東南アジア 衛生管理と予防急務

 東南アジア各国でこれまでに世界保健機関(WHO)統計によると、鳥インフルエンザで六十二人が死亡し、感染例としては百二十一件が報告されています。

 ベトナム政府は十月十三日に関係各省、委員会の合同会議を開いて、緊急行動計画を確認し、十五日にカイ首相が全国に対策を指示しました。タイのタクシン首相も二十日の記者会見で施策を発表。インドネシアのユドヨノ大統領も二十三日に「鳥インフルエンザは津波よりも危険だ」として全国に対策強化を訴えました。

 ベトナムでは二〇〇三年十二月以来、これまでに三回の鳥インフルエンザの流行があり、合計五千万羽の家禽(かきん)が殺処分されました。人間への感染は九十一人、死亡は四十一人と東南アジアの中で最大。

 タイの対人感染は十九人、死亡は十三人。十月十九日に今年初めて死者が出ました。

 インドネシアではベトナムやタイから一年遅れの昨年十二月以降に対人感染が発生、七人が感染、四人が死亡しました。カンボジアは四人が感染、四人が死亡しています。

 ベトナムで発生と対人感染が顕著な地域はメコンデルタ地方です。同地方は水路が発達し、家族単位のニワトリやアヒルの放し飼いが一般的。家族ごとに広範囲を移動し、多数の家禽を飼育しているため、鳥インフルエンザウイルスが伝染しやすく、衛生管理ができないことが原因とみられています。ベトナム保健省中央伝染病予防センターのホンハイン副所長は「家禽飼育を計画化、集中化し、衛生管理を徹底することが急務だ」と語っています。

 タイやインドネシアでも貧しい農家の家族飼育の場合に衛生管理が行き届かないことが指摘されています。

 ベトナムは今年冬の鳥インフルエンザの流行を想定して、八月から全国で家禽へのワクチン接種を開始。十一月末までに全国で二億六千万羽への接種を目標としましたが、ワクチンの輸入が間に合わず十二月にずれ込みます。

 各国とも抗ウイルス薬の備蓄を急いでいます。ベトナムでは人口の10%八百二十万人の感染を想定して八千二百万カプセルの準備が必要としていますが、現在の備蓄は六十万カプセルです。タイも六十万カプセルをすでに準備し、千三百の巡回医療チームを結成しています。(ハノイ=鈴木勝比古)

■アフリカ FAOが拡大警告

■十分な監視体制なく

 国連食糧農業機関(FAO)は十月中旬、ルーマニアとトルコでの鳥インフルエンザ発生を受けて、北、東アフリカ諸国への感染拡大を警告しました。

 これらの諸国がロシア、カザフスタンなどから欧州東部を経由しての渡り鳥のルート上にあるからです。

 FAOは「中東や北アフリカの諸国は対策をとる能力があるが、東アフリカでは防疫体制の不備で感染した動物の殺処分やワクチン接種などに基づく効果的な対策を取ることが困難だ」と指摘しています。

 またFAOは、アフリカ諸国ではアジア諸国と同様に住民が家禽と密接に接触して生活しており、十分な疾病監視体制がないこととあいまって、ウイルスが突然変異によって人間の間で感染力を持つ危険が大きいことにも懸念を深めています。(夏目雅至)

■欧州 ペットや家禽感染

■輸入・販売禁止広がる

 欧州連合(EU)の内閣に当たる欧州委員会は十月二十五日、英国で南米スリナムから輸入されたオウムからH5N1型鳥インフルエンザウイルスが検出されたことを受けて、販売目的のペット鳥の全面輸入禁止措置を決定しました。またこれに先立ち、各国にワクチン確保など対策の強化を呼びかけました。

 欧州への警戒信号となったのは七月に西シベリアで最初の感染が確認されてから。十月に入ってEUに隣接するトルコ、ルーマニア、クロアチアで相次いでH5N1型ウイルスに感染して死んだ七面鳥、サギ、白鳥が発見され危機感が深まりました。ロシアではすでに殺処分された家禽は六十万羽を超えたと伝えられています。

 英国をはじめ各国で市場や品評会などでの家禽類の販売や出店が禁止されました。放し飼いのニワトリなどは屋内に入れるよう義務づける措置もとられ、フランスでは九十五県のうちすでに二十五県で実施されました。

 当初、局地的にパニック状態が伝えられましたが、現在は比較的落ち着いています。ただワクチンはまだ十分に届いてない地方もあり、どの国でも鶏肉の売り上げが減少、値段も下がっており、農民たちは引き続き強い懸念を抱いていると報じられています。(パリ=浅田信幸)

■中国 渡り鳥が大量死

■「発生後、迅速に撲滅」

 中国では五月、青海省で渡り鳥六千羽あまりが鳥インフルエンザで死んだほか、今年だけで五回にわたる家禽への鳥インフルエンザの感染があり、中国政府は厳重な警戒を強めています。これまでのところ、鳥インフルエンザが人に感染したという報告はありません。

 中国農業省によると、十月中旬以後も内モンゴル自治区のフフホト市(十九日)、安徽省天長市(二十四日)、湖南省湘潭県(二十五日)で鳥インフルエンザ感染が報告されています。

 中国は、家禽の飼育数が百五十億羽近くもあり、世界の五分の一を占めています。しかもその多くが農家の副業として飼われています。そのため鳥インフルエンザを効果的に抑えるうえで困難があります。

 賈幼陵獣医局長は、鳥インフルエンザ発生を「完全に阻止するのは現実的でないが、発生後、迅速に撲滅する能力は完全にある」と強調しています。オタワでの国際対策会議に出席した高強・中国衛生相は二十五日、中央政府から地方に及ぶ指導体制の健全化、公開かつ透明性ある通報制度など七項目の中国政府の対策を紹介しています。(北京=菊池敏也)

 ▼鳥インフルエンザ 鳥類がインフルエンザウイルスに感染して起こる病気。ニワトリなどを死亡させる毒性の強い型があり、高病原性鳥インフルエンザと呼ばれます。このうちH5N1型ウイルスでは家禽と接触した人間への感染、発病が報告されており、人のインフルエンザウイルスと混じり合い、人間の間で感染する能力を持つウイルスが生まれることが懸念されています。一九一八年から一九年にかけて世界で数千万人の死者を出したスペインかぜは鳥インフルエンザウイルスから直接の突然変異で生まれた新型ウイルスによるものと考えられています。


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