2005年10月31日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

学校から広めたい

「公正」な世界

フェアトレード商品を大学生協に


■途上国の生産を支援

 フェアトレードを後押しする学生の動きが広がっています。もうけを最優先にする貿易に異議を唱え、生産者にフェアな価格を保証する「公正な貿易」。フェアトレードの何が学生の心をとらえるのか――。(杉本恒如)

 神奈川県の明治学院大学横浜キャンパスにある消費生活協同組合の一角。入り口の正面をフェアトレード商品のコーナーが陣取ります。同大学国際学部四年の伊東裕彰さん(22)、近藤もえさん(22)、飛山歩さん(22)の三人が生協と相談して、九月二十六日から設置されました。

 商品は飲料とお菓子、六種類です。ネパール産の紅茶を使ったクッキーが二百九十四円。エクアドル産の板チョコが三百十五円。農薬を使わず手間暇をかけてつくられ、生産者には生活を保障する価格が支払われています。コーヒーを輸入するフェアトレード団体の有限会社ネパリ・バザーロは、国際価格の二倍近くをネパール農家の協同組合に支払うといいます。

 「継続して置けるだけの利用があります」と生協店長の岡山淳一郎さん。コーナーの設置以降、ドライマンゴー五十個、クッキー百九個、チョコ二十個、ジュース五十本がすでに売り切れ、追加発注しました。

 三人はフェアトレードの意義を伝えるため、生協の前で二度、試食会を催し陳列棚や柱には手書きの解説を張りました。

 「農家の人々に入ってくるお金は非常に少なく、時には生産コストもまかなえず、彼らは貧しさの中で暮らしています。……フェアトレードはそのような途上国の人々を支えるために適正な価格や条件で行う取引です。……農薬や化学肥料に頼らずに、自然環境に配慮し……持続可能な社会を目指しています」

 チョコレートを納入する有限会社スローウォーターカフェのブログに同大学の学生が書き込んでいます。「三人とは顔をあわせたことはないですが、このような活動を起こしたことにとっても敬意を表したいです」

■不公平な世界の構造 自分に何ができる?

 近藤さんが途上国にこだわる原点は、十一歳から四年間暮らしたパナマにあります。自分より幼い子どもが荷物持ちをして働いていました。父親の運転する車に寄ってきて窓をふき、お金を催促する少年。父親が断ると、そばにいた男性が怒って何かを投げました。

 「けちな日本人と思われたんだろうな」。近藤さんはそのときの記憶をぬぐい去ることができません。

 三人は大学の講義で世界の「アンフェア」な構造を知りました。農産物や資源の大半を買い上げて価格を左右する力をもつ多国籍企業や投資家が巨額の利益を上げる一方で、生産者が飢えにあえぎ森は丸裸になるのです。

 自分に何ができるかを考え始めます。たどり着いたのがインターネットで知識を深めたフェアトレード。「日本でできるし、日本の人たちに問題に気づいてもらえる。学んだことを学校から広めよう」。そう思い立った近藤さんは、「大学生活の最後に何かやりたい」と考えていた飛山さんと意気投合。友人の伊東さんを誘って行動に乗り出しました。三月のことです。

 フェアトレード団体からアドバイスをもらい、生協専務理事の栗原義行さんと懇談。「学生さんの声はうれしい。君たちは生協を変えられるんだよ」と励まされました。

 学生が買いそうな商品を選定。六月の学園祭でネパリ・バザーロの商品を委託販売。七月に試食会とアンケート調査。陳列棚の飾りつけやパンフレットの作成を経て九月、生協への導入にこぎつけました。

 買い物の視点が変わったと、伊東さんはいいます。「このモノはどこでつくられ、働く人はどんな境遇にいるのか、考えるようになりました」

 「生協にフェアトレード商品が置かれてうれしい」と話しかけてきたり、メールをくれる後輩がいます。「こういうやり方で世界は変わるのかも」。飛山さんは手ごたえを感じています。

■各地の大学で広がる

 龍谷大学、神戸大学、立命館アジア太平洋大学、東京農業大学では、学生の自発的な活動によって、生協へのフェアトレード商品展開が行われています。東京家政大学、桜美林大学でも学生が取り組みを進めています。


▼フェアトレード

 起源は一九四〇年代アメリカのNGOの活動にあるといわれます。「南北問題」の表面化にともない六〇年代にヨーロッパで拡大。八九年に各国の団体が国際オルタナティヴ・トレード連盟(IFAT)を結成。九七年には国際フェアトレード認証ラベル機構(FLO)を設立しました。

 共通する原則には、(1)生産者や生産組合から直接に輸入して中間搾取を防ぎ、生活が保障される価格を提供する(2)人間としての尊厳が守られる労働条件を保障する(3)環境に負荷の少ない商品を推進する(4)あらゆる情報を公開する――などがあります。


■お悩みHunter

■“一緒に楽しく学ぶ”私の教師像は甘い?

Q 教師をめざし、今勉強中です。ただ、自分はどんな教師になりたいのか、はっきりしません。子どもたちと一緒に楽しく学ぶ先生を、と夢を描いてきましたが、先輩たちから「君の考えは甘い」といわれてしまいました。私の初心は貫けないでしょうか。(大学二年、男性。東京都)

■現状は厳しいが、大丈夫

A 確かに、今教師は大変です。指導力不足教員問題や不祥事に対する社会的バッシングにはとても厳しいものがあります。また免許更新制度の導入や「人確法(人材確保法)」による給与面での見直しまで財政審(財政制度等審議会)で議論されるありさまです。現場でも毎週の授業案提出や実施報告、学級通信一枚発行するにも管理職の点検と許可を得なければならないなど管理強化が進んでいます。先輩が言うように状況は確かに甘くはないかもしれません。

 でも、こうも考えられます。学校の主人公は児童・生徒。めまぐるしく変わる教育現場、教師にとってつらい現状は、きっと子どもたちにとってもつらいはずです。子どもたちが今最も求めているのは、ただ正解を教えてくれるだけの教師ではなく、共に悩み、考えてくれる存在としての教師ではないでしょうか。どんな状況であれ、「子どもと一緒」にパートナーシップで歩むことの大切さはなんら変わるものではないのです。

 私は仕事柄、全国各地の先生にお会いしますが、多くの教師たちは現状の厳しさに抗しながらも、子どもの目線を大切にし、職場の仲間と共に子どもたちと楽しく学んでいますよ。授業、生徒会活動、運動会にと、笑顔がはじけています。どんなに条件が悪くても、子どもたちと心が響き同僚と連帯できれば、無限の可能性がひらける、それが教職の魅力です。


■教育評論家 尾木 直樹さん

 法政大学キャリアデザイン学部教授。中高二十二年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。


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