2005年10月25日(火)「しんぶん赤旗」

“楽観的材料だけ” “強引な結論…”

「危険部位除去」「生後20カ月以下」というが

「本当に守られるのか」

米国牛肉 輸入容認案に異論続出


 BSE(牛海綿状脳症)についての日米の牛肉のリスクは「同等でない」――。二十四日開かれた食品安全委員会プリオン専門調査会では、座長が提示した米国産牛肉輸入再開の答申原案に、文書発言もふくめ輸入再開を容認できないとする意見が続出しました。全十二委員のなかでも少なくない反対があるのに“安全”の結論を出そうという強行運営。米大統領来日を前に早期輸入再開を急がせる政府側の圧力の強さがにじみでています。(宇野龍彦)

■プリオン専門調査会

 「結論部分に、まだ納得できていません」と文書で修正意見を提出したのは専門委員の山内一也・東大名誉教授。海外出張が変更できず出席できませんでした。

 吉川泰弘座長(東大大学院教授)が示した答申案は、米国産牛肉について、(1)危険部位除去(2)生後二十カ月齢以下――などの条件が「順守される場合は」という条件つきで「(日米の)リスクの差はきわめて小さい」という評価でした。

 “たら・れば”の仮定を前提にした案です。

 これにたいし、山内氏は「(米国・カナダ)両国の危険部位除去は、と畜場での監視の実態が不明であり、リスク管理機関による安全担保の実効性に疑問が残る。両国の牛肉・内臓肉が日本と同等とはみなしがたい」と、反対の立場から修正を要求しました。

 欠席した甲斐知恵子専門委員(東大医科学研究所教授)も、輸入再開は慎重にすべきだとする文書を提出しました。甲斐委員は、答申案の結論について「(危険部位除去、二十カ月以下という)上乗せ規制を順守するための具体的方策が示されていない部分も残されていることから、上乗せ規制の確実性にも疑問が残る」と指摘。「米国、カナダの全体としてのリスクはわが国より高い」と修正を要求しました。

■確実性にも疑問

 同委員はさらに答申案を批判します。

 ――二十カ月以上の牛も混じる、(米国の)と畜場で大量にベルトコンベヤー方式で処理を行う状況下で、他の年齢の牛のものと混ざることを完全に否定することをどのように担保するのか。

 ――危険部位の除去は確実であるのか。検査官が一頭一頭確認し、獣医師が確認しているとは考えられない。除去の確実性にも疑問が残る。

 そして、「輸入解禁は慎重におこなうべきという提言をおこなうべきでしょう。もしこのような一部規制を許すのであれば、どのような汚染国であっても、部分規制をおこなえば輸出入可能になるという例をつくってしまうことになる」と強い言葉で警告しました。

 同じく欠席した横山隆委員(農業・生物系特定産業技術研究機構動物衛生研究所チーム長)も文書意見を提出。答申案の結論部分にたいして「比較してきたことの一部のみが引用されているのみで、公正さを欠く」と批判。「BSEの根本的な対策は不十分であることが示されたのに、楽観的材料だけで判断していいのか?」とのべています。

■「委員の合意を」

 出席した金子清俊座長代理(東京医科大主任教授)は、「“現時点では(リスクが)同等かどうかは不明である”というほうが適切な表現ではないか」とするコメントを提出。「ここは今回の評価の核心ですから、おおいに議論すべきところと思います」と主張しました。金子座長代理ら複数の委員から「輸入を前提としている印象を否めない」として、「管理措置の順守が十分でない場合」のくだりを削除すべきだという意見も。

 こうした修正意見にたいして、事務局側はあらかじめ「結論への付帯意見」として別枠にすることが提案されていました。何がなんでも強引に結論を出そうという方針です。しかし、山内委員は「最後に付け加える形では、その他大勢の中に埋もれてしまい、重みが感じられません」とこれにも反対しています。

 会議では北本哲之委員(東北大教授)、金子座長代理が、欠席者が多く反対意見もあるなかで強引に結論を出さず、コンセンサス(合意)を重視するよう主張しました。

 結局、この日の会合は、反対・異論が続き、出張などで欠席した委員も出席したうえであらためて議論することになりました。

 専門家のなかでも反対が強い答申案を強引にとおすのかどうか――。まさに食品安全委員会の存在意義にもかかわる重大問題です。


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