2005年9月8日(木)「しんぶん赤旗」

世界の現実と小泉「改革」

格差拡大する市場万能主義

各国で亀裂・破たん


 「改革なくして経済活性化なし」。小泉首相は叫びます。さながら自民、公明の合言葉です。

 「改革」といえば当然といった感じがします。それは、とくにこの四年間の小泉政権の政治のあまりのひどさに、国民の多くが政治の根本的な「改革」を願っているからにほかなりません。

 ところが、小泉首相がいう「改革」は、国民が願うそのような改革ではなく、「規制緩和と民営化がすべて」という「改革」です。米国と日本の大企業のための民営化と規制緩和、国民犠牲の自由競争万能の新自由主義、米国型資本主義、米国主導のグローバル化(経済の地球規模化)の路線です。

■今も進行中の過程

 しかし、世界をみましょう。そのような新自由主義の路線は、世界各地で、ほころびと亀裂を広げ、破たんの道を歩みつつあるのが現実です。

 民営化・規制緩和にすべてを託す新自由主義が登場したのは、一九八〇年代初め。米国が純債務国に転落し、世界資本主義が困難に陥るなかででした。それを実行したのが米国のレーガノミクス、英国のサッチャーリズム、日本の中曽根首相の「臨調行革」路線です。九〇年代、旧ソ連の崩壊による「資本主義勝利」論と一体になって、新自由主義はいっそう声高に宣伝されました。

 しかし九〇年代後半、国際経済は大きく変化し、新自由主義の道を歩む国々で失業の増大、貧富の差の拡大、貧困層の急増など矛盾が表面化し、その過程は今も進行中です。新自由主義、米国型グローバリズムの矛盾、破たんの結果です。

■貧困のハリケーン

 その矛盾が典型的な形で現れているのは、ほかならぬ米国です。社会的格差が拡大しています。貧困層市民は年々増大し、最近の統計で17%、六人に一人という状況です。

 市場万能主義のもとで肥大化したエネルギー大企業エンロンのスキャンダルなど大企業の腐敗が頻発。他方で、カリフォルニアの大停電や一部都市での水道サービスの崩壊など、みさかいない公共部門の民営化は、国民生活に重大な損害を与えています。

 経済学者ポール・クルーグマン・プリンストン大学教授は、最近の論評で、国内総生産や失業率の若干の改善にもかかわらず国民の不幸は増大しているとして、こう書いています。

 「経済は成長したがその分は賃金になっていない、どこへいったのか。答えは簡単だ。企業のもうけになり、増大する医療費負担に回され、経営者の給与やもろもろの収入になっているのだ」(ニューヨーク・タイムズ八月二十六日付)

 ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、ニコラス・クリストフ氏は、先の米国のハリケーンの悲惨な被害の裏には貧困問題があるとし、「米国はより大きな貧困のハリケーン」に直面していると指摘しています。

■「社会的欧州」路線

 欧州では英国で保守党の民営化万能路線が破たんし、九七年に社民の労働党政権が登場。仏、独などで、労働者、勤労市民の生活と権利を守る「ルールある社会・経済」を資本主義の枠内で追求する「社会的欧州」の路線が浮上します。新自由主義への挑戦です。これに対する反動の動きも浮上する中で、「社会的欧州」をどう維持、発展させるかが欧州の広い共通理解となりつつあります。

 また発展途上国に対する新自由主義経済戦略(ワシントン・コンセンサス)の崩壊も顕著です。

 ラテンアメリカでは、米国の路線への反発と自立への動きが広がり、米国に距離を置く政府が相次いで誕生。これらの国による共同体が設立されました。

 アジア各国は、国際的な金融自由化路線の結果でもある九七年の金融・通貨危機の発生、さらに国際通貨基金(IMF)の対処策の失敗という苦渋の経験の中から、東南アジア諸国連合(ASEAN)の共同体、東アジア共同体の構想を生み出します。

 いずれも新自由主義政策を体験した上での、そこからの離脱、克服をめざす動きです。

 日本では、米国からの強い要求と圧力のもと、歴代自民党政権と財界がこれに積極的に応える形で新自由主義の政策を進めてきました。コメ市場の開放、保険の自由化、航空業の自由化、金融ビッグバン、大店法の廃止、外国大型店の進出…。いずれも、日本国民に負担を強いる結果となっています。そしていま郵政の民営化です。

 小泉「改革」のまやかしを見破るかどうかは、この国のあり方にかかわる大きな問題です。(三浦一夫)


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