2005年8月29日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

誤解だらけの学生像

遊んでいたい

バイトばかり

勉強は二の次


 大学生は「遊んでる」「バイトばかりしている」「忍耐力がない」「目標を持ってない」…。大学生に、そんなイメージを抱いている人が多いかもしれません。しかし、今の大学生の実際は違います。今の大学生のほんとうの姿とは――。(鈴木誠一、矢野昌弘)

■授業を大切にしたいが…

 東京の国立大二年生の川原真さんは、今の大学生についてこういいます。「みんなまじめです。学びたいからなるべく授業をとろうとします。しかも漫然と授業はうけたくないんです」

 大学生が入学年度に支払う学費は、私立大学平均約百三十万円、国立大学も八十万円を超えます。川原さんは「高い授業料を親に支払ってもらっていることを申し訳ないと思う学生がとても多い。その分勉強を頑張らなくてはと感じている」といいます。

 各地の学生自治会が学生アンケートをとると、授業改善の要求が非常に強いそう。ここ数年、生活のなかで授業・ゼミを一番大切にしているという学生は多くなっているといいます。

 しかし、国立大学に通う三年生の藤原めぐみさんは、「何年も前の、ほかの大学教授のテレビ講座を見せる授業もあります。日々新しい研究の成果が生まれているはずなのに」と不満げ。「教員が九十分、板書するのをひたすら写す。これが学ぶということなのかな?」と疑問をもつ学生もいるといいます。

 百人、二百人規模の授業でつまらない講義を聞かされると、携帯電話のメール打ちやほかの授業の準備など「内職」をする学生の姿。興味をひかず、しかも出欠をとらない授業はさぼり、過去問や友人のノートを借りて、テスト本番だけ出席。授業を大切に考える学生たちの、一つの抵抗の姿ではないでしょうか。

 その一方で「大学では学ぶことが学生の自主性に任されすぎている気がする」と関西の私立大学に通う四年生の田中里美さんは指摘します。高校までの勉強の仕方しか知らず、文献や研究成果にあたる方法もわからない。学生の方から聞きにいかなければ、教員は教えてくれません。

 田中さんは日本史の授業で、教員が当時の歴史と現在をつなげて話してくれた講義から、「歴史をみることで今がみえてくること」を教えられました。「自主的に学ぶことの大切さ、おもしろさに気づいた。まわりの学生に広げ、学ぶ雰囲気をつくっていきたい」といいます。

 学問のおもしろさが伝われば、学生は教員の努力に積極的に応えます。(名前はすべて仮名)

■慶応義塾大学経済学部 河地和子教授に聞く

 一般に思われている大学生のイメージと実際の大学生とは違う――。慶応義塾大学経済学部の河地和子教授が、著書『自信力が学生を変える』(平凡社新書)で大学生像についての調査結果を発表しています。河地さんに聞きました。

■将来が不安、背中押してあげて

 『自信力が学生を変える』では、首都圏九大学で二千百人余へのアンケートと九十三人のインタビュー調査を行っています。調査から、生活の中で授業に重点をおいていると答えた学生は54%にのぼりました。怠け癖・遊び癖のある大学生は、一割に満たないことなども分かりました。

 調査のきっかけは学生が自信をなくしていると感じたこと、そして大学や教員にたいして大きな不満を抱いていると感じたことです。学生の間で、いかに楽をして単位をとったかという、一見自慢話のようなことがよく話題になります。よく話題にするということは、気になっているから口にするのですね。

 楽をして単位をとっている自分への後ろめたさ。そんなことで単位をくれる教員とは何なのか、「本当に自分を見てくれているのですか」という問いかけですね。

■強い怒りも 驚いたことに、学生にまったく関心を示さない教員や、教える内容が学問のレベルに達していない教員にたいして、学生は強い怒りを感じていたことです。この傾向は大学の偏差値には関係なく、調査した九大学に共通したものでした。

 痛感したのは、学生のまわりに胸の内を聞いてもらえるおとながいないこと。同級生や友達はお互いに子どもだと思っていて、本音を話さない。

 おとなと話すことにこだわっていて、今回のインタビューでも募集すると九大学全部から「話したい」と応募がありました。話を聞くと学生は、これまで誰にもしたことがない話を私にしてくれ、十人近い学生が泣いていました。こんなにまで泣くっていったいなんだろうと考えましたね。それぞれが孤独なんですね。

 学生は自分の将来が不安だから、おとなと話して本当のことが知りたいと思っているようです。教員に接したい要求をもっているという結果に、それは表れていると思います。

 最近、授業中にこんな光景が増えてきました。私が質問すると、学生同士で顔を見合わせ、誰も発言をしないんですね。

 なぜか、直接聞いてみると「様子見です」と学生はいうのです。「目立ちたくない」「間違っていたらいやだ」と。「クラスの中で私はビリですか」と聞いてくる学生が何人も出てきたことも、これまでなかった現象でした。

 講義やサークルに積極的で充実している学生でも、どこかしら自分を責めているところがあって、社会の価値観が自分をはかるすべての尺度のように感じているフシがあります。

■理想の性格

 就職情報誌には「リーダーシップをとれる人間に」「自己主張が大切」という言葉があふれかえっています。ここ最近、社会の価値観がすごく変わってきました。経済、社会がグローバル化、つまり欧米化して、「積極的でなければ」という意識が若者に定着してきました。その理想の性格になれないことに学生は悩んでいるように感じます。しかも悩みを解消する手だてがわからない、まわりに助けてくれるおとながいない状況があります。

 おとなは、自分がいかに学生の背中を押してあげられるか、それが若者にとってどんなにありがたいことなのかを知ってほしいです。

 やる気のわかない講義には、学生が意見を言いにいく勇気が必要です。「いい講義を受けたい」という思いは自分だけでなく、まわりの学生も同じなのです。同じ考えを持った学生同士でガッツを持って言いにいってほしいと思います。


■大学生イメージクイズ

 〇か×で答えてみてください。

 『自信力が学生を変える』の10の設問から抜粋したもの。

 (1)教員との接触を「ウザッタイ」と考える学生が多い。

 (2)授業への熱心度は学年が上がるほど落ちていく。

 (いずれも正解は×)


■お悩みHunter

■流されやすい同世代自分の考え持ちたい

 私が言うのもおかしいのですが、周りの同世代をみていて「流されやすいな」と思うことがたびたびあって、いやな気持ちになることが最近あります。選挙でも小泉さんとか、ホリエモンは話題になりますが、これもテレビのせいみたい。私も反省気味なのです。自分の考えをしっかりもつようにしなきゃと思うのですが…。(女性、24歳。横浜市)

■ごつごつした交わり大切に

 確かに、最近社会全体が、テレビや情報誌に安易に流されすぎです。話題だけでなく考え方まで流されている気がします。そんな情況に「嫌な気持ち」になったり、怒ったりできるあなたはすごいです。

 自分に「反省気味」なところも、自分のことをよく見つめている証拠です。うれしくなります。「自分の考えをしっかり持つようにしなきゃ」と思う若者が、こうしてここに実在する。それだけで、もう私など勇気がわいてきます。

 私自身も、あなたと同じような悔しい思いにとらわれているからかもしれません。

 今、世界はグローバリズムと言って、地球規模で情報が素早く動く社会です。テレビや新聞よりも、インターネットは情報の高速道路をデジタルで瞬時に駆け巡ります。

 おまけに双方向性で、匿名性が高いときていますから、本当の顔や姿を見ることができません。その結果、情報量は多いのに、バーチャルだから、自分に自信や確信が持てないのです。逆に世の中の情況に流されないと、安心して生きていけないような「同調圧力」も感じてしまうのかもしれません。

 そうならないためには、リアリティーのあるごつごつした人と人との交わりや協力・共同体験こそ大切です。生の人間を信頼できれば、いつの間にかたくましい自分の考えも育つと思います。


■教育評論家 尾木 直樹さん

 法政大学キャリアデザイン学部教授。中高二十二年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。


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