2005年8月29日(月)「しんぶん赤旗」

主張

全国学力テスト

競争強化ではなく条件整備を 


 文部科学省は、小六と中三の子ども全員がうける「全国学力テスト」を二年後に実施する方向を明らかにしました。

 学力の全国的傾向を調べて学習指導の改善に役立てる目的なら、サンプル調査で間に合います。今回の構想は、そうした調査とは違い、「全国学力テストをやって競い合う教育を」(中山文部科学大臣)という、競争を目的にしたものです。テストで「隣の子に負けるな」「隣の学校に負けるな」と競い合わせれば、学力が向上するという暴論です。

■子どもの成長ゆがめる

 日本の子どもの大きな特徴は「世界一の勉強嫌い」にさせられていることです。学ぶことの面白さを伝えずに、仲間と競争させるのでは、子どもの成長をゆがめるだけです。早い時期から勉強についていけないまま放置されている子どもの増加も大きな問題ですが、テストで下位にいることを際立たせ、追いつめることが何の役に立つでしょうか。

 世界を見ても、テストによる学力向上策は、まったくの時代遅れです。OECDの学習到達度調査(PISA)で「学力世界一」となり注目をあつめているフィンランドでは、国や地域レベルの一斉テストは皆無です。同国の教育省はフィンランド成功の要因の一つに、以前あった「テストと序列付けをなくし、発達の視点に立った生徒評価」に転換したことをあげています。

 今やるべきは「全国学力テスト」ではなく、次のようなことです。

 第一に、少人数学級などの条件整備です。フィンランドは一学級二十四人以下ですが、いまだに日本は「四十人学級」制で、実際に三十人以上の学級が六割近くを占めます。これでは、一人ひとりをていねいに指導できません。また、学習に遅れがちな子どもには、独自の支援体制も必要です。

 「全国学力テスト」の経費は数十億円規模とみられます。そんなお金があるのなら、すべて条件整備にまわすべきです。

 第二に、教員が十分に準備し、体力・気力とも充実して授業にあたれるようにすることです。日本の教員の平均労働時間は過労死ラインをこえ、しかも、不毛な文書づくりにおわれ、教材研究の時間が満足にとれないという本末転倒な忙しさです。教員統制の強まりのなかで、自分が一番いいと思うような授業をする自由が教員から奪われつつあることも問題です。文部科学省はこれらを反省し、教員政策をあらためるべきです。

 第三に、学習内容の抜本的な見直しです。世界の流れは、単なる暗記から、市民として生きていくための学力重視の方向です。日本の子どもも、基礎的な事項の意味が深く分かったり、自分や現実社会とのかかわりがつかめる授業には目を輝かせます。現行の非系統的な学習指導要領の強制ではそうなりません。国民の英知をあつめ、大切で魅力的な学習内容の大綱をつくるとともに、それをどう教えるかは、教員の専門性と自由にゆだねるべきです。

■苦い歴史直視し中止を

 「全国学力テスト」には苦い歴史があります。一九五〇年代から六〇年代にかけて実施され、「学校の平均点をあげるため、テスト当日、勉強のできない子どもを欠席させる」などの事態が各地でおきました。そのため過度の競争をまねいたとして六六年に廃止されたのです。

 「全国学力テスト」は中止し、条件整備など、本当に学力保障になる施策を進めることを求めます。


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