2005年8月4日(木)「しんぶん赤旗」

主張

アスベスト被害

犠牲広げた行政の責任は重い


 政府は石綿(アスベスト)問題に関する関係閣僚会議で、公共施設などへの吹き付けアスベスト使用の実態調査をはじめ当面の対応策を決めました。しかし、労働災害の補償を受けずに死亡した労働者と家族、工場の周辺住民の被害への対策を先送りするなど、不十分な中身です。

 石綿被害が社会問題になりながら、政府が抜本的な対策をとらなかったため底知れない被害を招きました。徹底した実態調査と救済、被害防止の対策が急務です。

■立ち遅れた安全対策

 石綿の粉じんを吸い込めば、肺がんや中皮腫(ちゅうひしゅ=胸膜、腹膜にできる悪性のがん)などを発症することは早くから知られていました。六四年にはアメリカのニューヨーク科学アカデミーの国際会議で、肺がん、中皮腫の発症を警告する「勧告」が出されました。七二年には、世界保健機関(WHO)、国際労働機関(ILO)がそれぞれ発がん性を指摘していました。

 一九七二年、日本共産党の故山原健二郎衆院議員が工場での肺がん多発の実態を示して対策を求めた際、旧厚生省は工場の周辺住民の被害についても可能性を認めていました。

 にもかかわらず、七五年に石綿吹き付け作業を原則禁止としましたが、濃度の低い吹き付けは認めました。粉じんの出る切断作業の際、呼吸用の保護具、保護衣の使用は、九五年まで義務付けませんでした。

 環境庁も七三年に周辺住民の被害の可能性を認識し、八〇年には周辺への石綿の飛散防止対策など求める研究班の報告書を出しました。しかし、家族や住民への被害防止や健康診断などの対策はとりませんでした。大気汚染防止法改正で石綿排出を規制したのも八九年からです。

 石綿の有害性を認識しながら大量使用を認めてきた責任は重大です。総計九百九十万トンを輸入し、使用しています。欧州各国では一九八三年から九〇年代はじめにかけて使用禁止が相次ぎました。日本が毒性の強い青石綿、茶石綿を禁止したのは九五年で、白石綿は二〇〇四年十月の原則禁止まで使用を認め、〇八年全面禁止の前倒しも未定です。

 国民の健康より業界の都合を優先したのではないか、という疑問が出るのも当然です。政府も「決定的な失敗だった」(西博義厚生労働副大臣)と認めたように、「失敗」の原因と責任を究明すべきです。

 石綿を吹き付けた建築物の老朽化による解体や改修は、これからピークを迎えます。

 もっとも危険にさらされるのは建設現場で働く人たちです。安全対策には多額の費用と手間がかかります。七月から実施された解体作業時の被害の予防規則の徹底が重要です。そのため小規模業者には公的な支援を検討することも必要です。

 中皮腫による死者は、今後四十年間で十万人にのぼると予測されています。政府が抜本的な対策をとらなければ、今後数十年にわたり被害が拡大することになりかねません。

■国民の願いにこたえ

 日本共産党は政府への緊急申し入れで、石綿の使用・在庫など全国実態調査と石綿の全面禁止、安全除去と被害者救済の徹底、周辺住民などの健康診断調査の緊急実施、労災認定の抜本見直しと新たな救済制度の実現、石綿使用施設の解体などの被害発生防止、学校施設の使用実態の再調査と完全撤去など求めました。

 石綿被害に不安を強める労働者と家族、周辺住民の願いにこたえ腰をすえた対策を急いでとるべきです。


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