2005年7月25日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

後押し求めて「占い」行列

いまの彼氏でいい?

正社員なれるかな?


 「運命」「運気」「開運」などと書かれた高さ30センチほどのちょうちん。縦横50センチにも満たない7つの台の上に、それぞれぽつんと置かれています。東京・新宿駅西口で、毎夜見られる「占い」の光景。若い女性が列をつくって並びます。若者たちの中に広がっている「占い」。なぜ占いなのか―。(藤川良太、菅野尚夫)

 占いに訪れた二十五人に聞き取りアンケートを行いました。男性は二人だけで、女性は二十三人と圧倒的です。平均年齢は二十六・六歳。

■恋愛と仕事が主

 何を占ってもらったのか――。最多は「恋愛」で十八人です。ついで「仕事」の十三人(重複あり)。そのほかに、人生、勉強、健康などでした。

 恋愛では「結婚を考えている今の彼氏でいいのか」「今後彼氏はでき、結婚できるのか」という悩み相談が多くありました。二十代後半から三十代の働く女性も多く、その年代の不安でもあるようです。

 仕事では「不況で会社が危ない。どうしたらいいのか」「転職を考えている」「残業が多く、この仕事を続けていっていいのか」などの悩み。不況下、若者の置かれている状況を反映しています。郵便局員(38)は、郵政民営化やサラリーマン増税、消費税増税はとんでもない、自分の将来はどうなるのか、と尋ねたら「政治のことは分野が違うといわれた」といっていました。

■「信じない」0人

 占ってもらった結果については――。「参考にする」が十九人、「信じる」六人、「信じない」はひとりもいません。「信じる」という人の中には「励まされた」「信じたい」と答える人もいます。なかには「本当だったらいい。励ましてくれた。大満足」と涙を流す女性もいました。

 なぜ、占いなのか――。「未来を見てほしかったから」「今後を見たらどうなんだろうと思って」などと、自分の「将来」を知りたがっている様子です。

 「親や友だちは自分を知っているから決めつけた意見を言う」「友達に話しても答えの予想がつく」などという声もありました。 

■ある種のカウンセリング

■狂信システムには注意

 『若者たちに何が起こっているのか』(花伝社)の著者で横浜市立大教授の中西新太郎さんの話

 女性向け雑誌などは、二十代後半から三十代の女性のライフコースを想定し、その年代をターゲットに占いの記事を載せています。この年代は結婚をして家庭を持つというライフステージに入ります。現実的にいろんなことを考えていかなければならない時期です。

 ですから、人生について真正面から受け止めていく時期なんですね。しかし、派遣やアルバイトなど非正規社員は圧倒的に女性が多いわけです。

 「しっかりとした仕事に就けるのだろうか」「結婚はできるだろうか」―。たくさんの悩みがあって信じられる方向を見つけたいのです。自分の判断や思いについて「それでいいんだよ」と背中をポンと押してくれ、支えてくれるものがほしいのだと思います。

 それが「占い」なんです。ちょっと「他力本願」なところがあるけれど、自分の判断で決めたんだと思えるわけですね。占い師はある種のカウンセリングなんです。友達や親のアドバイスだと、「どうして聞かないの。だから駄目なのよ」と自分に跳ね返ってくる。占いは信じられる部分を見つければ良く、後腐れがないわけです。

 男性が占いに来るようになったのは、非正規社員が増え、置かれている状況が女性と似通ってきているからです。終身雇用ではなくなり、会社にほっぽり出され、自分の才覚で生きていかなければならなくなったわけですね。

 「信じたい」という思いを入り口にして、自分自身を見失わせるシステムをつくっているカルト集団や新興宗教もあります。他人の尊厳や価値を傷つける狂信のシステムが用意されているものもあります。そうしたものの危険性について警鐘を鳴らす必要があるし、若者たち自身が見抜く力をつけることも大切です。

■占ってもらった人(一部)と相談内容

 女・21、大学生 健康が不安だったけど「大丈夫です」といわれた。米国留学後の進路を決めかねていたけれど、米国でさらに勉強することにした。占いで未来のことが分かると思う。

 男・38、郵便局 郵政民営化、サラリーマン大増税など不安。「政治のことは分野が違う」といわれた。職場には相談できる人がいない。全部信じるわけじゃないがつかえが取れた。

 女・23、講師 結婚はいつごろか、出会いはあるか? 講師だけれど正職につけるだろうか占ってもらった。2年後には仕事も恋愛もうまくいくだろうといわれた。信用したい。

 男・25、整備工 不況で会社が危ないので、やめたらいいか、残ったほうがいいのか占ってもらった。「倒産するから辞めたほうがいい」だった。本当かなあと思う。50%ぐらいは信じる。

 女・22、公務員 公務員の採用が決まったが、漫画家になりたい。公務員をしながら漫画家の勉強をしてたらという答えだった。参考にしたい。親は漫画について不理解なので相談してみた。

 女・31、会社員 いまの彼と進んでいいのか相談したら、いいという答えだった。背後霊は西洋系の人といった。私はカトリックなので、当たっている。まんざらインチキとは思えない。

 女・23、事務員 来年留学する予定。彼氏ができなかったらどうしようという漠然とした不安がある。運気は上がってる、人間関係に気を付けるようにといわれた。


■お悩みHunter

■勉強しない大学生活抜け出したいけど…

 Q 大学に入って、「勉強するゾ」と意欲を燃やしていました。でも、だんだん勉強しなくてもいい毎日がすぎ、スポーツサークルや友達と飲んだり、遊び歩くようになってしまいました。何とか抜け出さなきゃいけないと、思うようになっているのですが…。(大学一年、男性。大阪府)

■不安くぐって学問が始まる

 A なかなかどうして。順調な大学生活をお送りだと思います。希望に燃えて入学。勉強に、バイトに、思い切り打ち込むぞとやる気満々の春。でもふと気付くと、楽しいけどなんだか安易な方向に流されている自分がいて自己嫌悪。これは学生時代にぜひとも経験すべきことの一つでもあります。

 大学とは、自ら学ぶ「学問」の場です。受験勉強のような明確な目標もなければ、勉強しなさいとお尻をたたくおとなもいません。もちろん、そんなことはあなたもきっと承知の上で、本当ならきちんと自分で勉強しているはずだったのに…と余計に焦りを感じるのでしょう。

 しかし理想通りに動けないのが人間。新しく自ら学問を始めるには、まず「このままではヤバイかも」というような不安や後悔をくぐり抜けることも必要なのです。この悩みは、実はとても大切な成長の証しなのです。

 今やっと学問のスタート地点に立てたのです。まずは自分の心が動く学問の題材探しから始めてください。図書館に行き、手当たり次第に目を通してみる。研究会や講演会に参加してみる。とにかく何でもいい。動いてみることです。

 テレビ、新聞、インターネット、教授、先輩、利用できるものはどん欲に活用しましょう。折しもこれから夏休み。自分の心にピンと来るものに出会うまで、自分の目、足、頭、心をフル稼働させてください。

 教育評論家 尾木直樹さん 法政大学キャリアデザイン学部教授。中高二十二年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。


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