2005年7月13日(水)「しんぶん赤旗」

「つくる会」教科書

他社と比較してみると


 中学校教科書の採択がはじまりました。その多くは八月に予定されています。四年前は国民の批判の前にゼロ採択だった「新しい歴史教科書をつくる会」教科書。今回は、自民党が運動方針で歴史教科書「適正化」をかかげて各地で圧力をつよめ、予断を許しません。あらためて、「つくる会」教科書がまったく異質なものであることを、他の歴史教科書とも比較しながらみてみました。

■目的は戦争の反省一掃

 「つくる会」とはどういう団体でしょうか。

 この会の目的は、一九九七年に発足した際の「趣意書」にはっきり示されています。

 「私たちは……新しい歴史教科書をつくり、歴史教育を根本的に立て直すことを決意しました。…中略…戦後の歴史教育は、日本人が受けつぐべき文化と伝統を忘れ、日本人の誇りを失わせるものでした。特に近現代史において、日本人は子々孫々まで謝罪し続けることを運命づけられた罪人の如くにあつかわれています。冷戦終結後は、この自虐的傾向がさらに強まり、現行の歴史教科書は旧敵国のプロパガンダをそのまま事実として記述するまでになっています」

 つまり、日本がおこした戦争が反省すべき侵略戦争だというのは、アメリカなど旧敵国のプロパガンダ=宣伝文句にすぎず、日本の戦争を侵略戦争だったと教えることを一掃するために、自分たちは立ち上がったというのです。これはいま世界から批判されている、靖国神社の戦争観とまったく同じです。(表1)

 「つくる会」は他の教科書会社とは性格を異にする、靖国神社の“別動隊”のような運動体であることは、動かせない事実です。

■侵略を「アジアの解放」

 「つくる会」の目的は、教科書にはっきり現れています。そのもっとも露骨なものは、太平洋戦争の記述です。

 他の教科書は共通して、戦争は日本による東南アジアへの侵略戦争であり、当時日本の軍部が宣伝した「アジア解放の戦争」は偽りだったと記述しています。(表2)

 「つくる会」教科書は百八十度ちがいます。とくに注目されるのは次の二つの文言です。

 A「日本は米英に宣戦布告し、この戦争は『自存自衛』のための戦争であると宣言した」 B「日本の緒戦の勝利は、東南アジアやインドの人々に独立への夢と勇気を育んだ」 Aは「当時の日本が自存自衛といった」という客観的説明のように見えますが、そうではありません。教科書には「自存自衛」が偽りだったという説明は皆無です。しかも、戦争への経過を「米・英・中・蘭の4国が日本を経済的に追いつめる」と日本が追いつめられて戦争にうって出たと描いています。これでは自衛のための戦争だったと教えることと同じです。

 Bも同様です。戦争のごく初期にアジアの一部の人々が、日本軍に解放軍としての役割を期待したことは事実ですが、それは文字どおりの幻想でした。ところが、「つくる会」教科書は肝心の幻想だったことを書かず、日本軍は占領期間に「のちの独立の基礎となる多くの改革をおこなった」と説明します。

 この教科書をつかってどう教えるかを示す、教科書に対応している教師用指導書では、はっきりしています。

 現行の「つくる会」の教師用指導書では、教師は「大東亜戦争の目的は何ですか。ノートに書きなさい」と生徒に指導し、「自存自衛とアジアを欧米の支配から解放し、大東亜共栄圏を建設すること」というように書けているかどうかを確認することになっています。現行版も新版も、AとBはほとんど同じ表現、展開のしかたも同じです。

■罪悪感は占領軍が形成

 戦争がおわり、多くの国民は「二度と戦争はしない」と誓いました。

 ところが、「つくる会」教科書は、戦争への「罪悪感」は、占領軍が宣伝したことに要因があると説明します。

 「GHQは占領直後から、新聞、雑誌、ラジオ、映画のすべてにわたって、言論に対する厳しい検閲を行った。また、日本の戦争がいかに不当なものであったかを、マスメディアを通じて宣伝した。こうした宣伝は、東京裁判と並んで、日本人の自国の戦争に対する罪悪感をつちかい、戦後の日本人の歴史に対する見方に影響をあたえた」

 本当にそうでしょうか。戦争で国民は多くの肉親を失いました。兵士の死亡の六割は非人間的で無謀な作戦による餓死です。国民の生活も悲惨なものでした。先月が六十周年にあたる沖縄戦では、住民は日本軍によって食料を奪われ、安全な壕(ごう)を追い出され、砲弾の降り注ぐなかをさまよいました。戦争への反省は、こうした体験のうえに国民が自ら形成したものです。

 他の教科書はどうでしょう。どの教科書も、さまざまな工夫をして、戦争の悲惨さをえがき、二度と戦争をくりかえさないという国民の願いを子どもに伝えようとしています。

■これでは世界から孤立

 子どもたちは、私たちの世代に比べても、ますますアジアと世界の人々の交流のなかで、生活し、働く世代です。

 日本はかつてアジアを侵略した国です。アジアの若者は、その時代に自分たちの国がどんなめに遭わされたのかを知っています。その時に、日本の若者が加害の事実を知らないだけでなく、「日本の戦争は自存自衛、アジア解放のためだった」と言えばどうなるでしょうか。

 日本の子どもを世界の人々から相手にされない人間に育てていいのか。このことが問われています。

■表1 「つくる会」と靖国神社の“戦争観”            

▼「つくる会の目的」

 「現行の歴史教科書は旧敵国のプロパガンダをそのまま事実として記述するまでになっています」「歴史教育を根本的に立て直す」(「新しい歴史教科書をつくる会」の「趣意書」)

▼靖国神社の使命

 「戦後、誤った風潮による大東亜戦争批判が日本人の心の中に埋め込まれ、戦争を知らない世代にまで浸透し、祖国の汚名が着せられたままです」「今、その真実をあなたに伝えたい」(靖国神社で放映されている映画)

■表2 太平洋戦争について、「つくる会」と他の7社の教科書記述の比較        

▼「つくる会」教科書記述

 A「日本は米英に宣戦布告し、この戦争は『自存自衛』のための戦争であると宣言した」

 B「日本の緒戦の勝利は、東南アジアやインドの人々に独立への夢と勇気を育んだ」

▼7社の教科書記述

 「アメリカ・イギリスとの開戦と東南アジア侵略」(教育出版)

 「日本が侵略した東アジアや東南アジア」(東京書籍)

 「中国との戦争に欠くことのできない石油やゴムなどの資源を、東南アジアに求めた」(帝国書院)

 「アメリカは、日本の東南アジアへの侵出に対して、…東南アジアからの日本軍の撤退を要求した。しかし、日本はこれをはねのけ、軍部は対米戦争の準備を進めた」(日本文教出版)

 「『大東亜共栄圏』はたんなる宣伝のスローガンにすぎなかったのです」(日本書籍)

 「日本の占領政策は、欧米にかわる、植民地支配にほかならなかった」(清水書院)

 「実際には、独立を認めないまま石油や鉄などの資源や食料を取り立てて、住民を戦争に協力させました」(大阪書籍)


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