2005年6月15日(水)「しんぶん赤旗」

徹底ルポ

“靖国史観”の現場をゆく

「戦史回廊」で何を学ばせる


 東京・九段にある靖国神社。高さ二十五メートルの大鳥居(第一鳥居)をくぐって、長い参道を抜けていくと、神門、拝殿があります。拝殿の前に立つと、奥の方に、首相や国会議員が参拝する際にテレビで映る本殿をのぞき見ることができます。

 敷地面積九万三千三百五十六平方メートル。東京ドームの建物面積のほぼ二倍もある広大な境内には、日本陸軍の生みの親とされている大村益次郎の銅像など旧日本軍ゆかりの建造物がそこかしこにあります。

 そのなかで異彩をはなつ建物が拝殿の右手奥にあります。靖国神社が一八八二年に「日本初の軍事博物館」としてつくった「遊就館」(戦後は一九八六年に再開)です。石造りの壁に瓦屋根の近代東洋式建築と呼ばれる旧館と、ガラス張りの現代風の新館とが隣り合わせたつくりが目を引きます。

 ここは、靖国神社が「日本近代史の真実をより正しく理解していただく」(無料リーフ「やすくに大百科」)ための施設と位置付けている建物です。いわば“靖国史観”の宣伝センターです。

◆「真実」とは

 「遊就館」がいまの姿になったのは、二〇〇二年七月。新館を大増築し、展示スペースを従来の二倍に拡大しました。

 開館式であいさつした湯沢貞宮司(当時)は、「高度な展示技法を駆使した大小三千点に及ぶ展示は必ずや英霊の御心を伝え、近代史の真実を明らかにするものと期待している」とのべました。

 靖国神社が明らかにしようという「近代史の真実」とは何か。

 湯沢宮司は、あいさつのなかで、太平洋戦争を「大東亜戦争」とよび、「わが国の自存自衛のため、さらに世界史的にみれば、皮膚の色とは関係のない自由で平等な世界を達成するため、避け得なかった戦い」と説明しました。

 日本が行った戦争は「正しかった」――この“靖国史観”を広めるため、「遊就館」はそれまでの遺品展示中心の内容を大きく変えました。その中心が「近代史の真実を学ぶ『戦史回廊』」(湯沢宮司)です。

◆「学習の場」

 遊就館のなかに入ると、展示室の手前と出口の映像コーナーとともに、展示室内のカラーパネルが目に付きます。第六展示室の「日清戦争」から第十五展示室の「大東亜戦争5」までだけで、その数は約五十。中ぐらいのもので畳二畳分、大きなものは高さ二メートル、幅は十メートルにもおよびます。

 この「戦史回廊」こそ、「極東の小国・日本が大国を相手に立ちあがった…自存自衛の戦争」(入り口付近の映像コーナーで上映する「私たちは忘れない」のナレーション)というストーリーを入館者に植え付ける仕掛けです。

 湯沢宮司は、展示の狙いが「次の日本を背負う青少年にも分かりやすくという趣旨」と説明。同神社を経済的に支える崇敬奉賛会の久松定成会長は同じ開館式のあいさつで「戦後世代の方々が…学習の場としてくださることを期待」するとのべました。

 靖国神社遊就館部は、本紙の取材申し込みに「英霊の顕彰という本館の趣旨に反する」として、取材を拒否しました。「英霊の顕彰」―戦没者への追悼ではなく、旧日本軍兵士の武勲をほめたたえることを目的とする施設が、青少年になにを「学習」させようとしているのか。(靖国問題取材班)

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