2005年6月10日(金)「しんぶん赤旗」

点検郵政民営化法案

資金の流れ 安全・安心を切り捨て

【特集】郵政民営化


 今国会で審議されている郵政民営化法案。小泉首相は「改革の本丸」といいます。法案の問題点を点検します。 (金子豊弘)

 郵政事業の民営化のために国会に提出されている法案は六つ(別項)あります。

 郵政民営化法案の最大の問題は、全国一律のサービスが義務づけられ国民に安全・安心な金融サービスを提供している郵便貯金・簡易保険を廃止することです。そして、利潤追求が目的の民間銀行・保険会社に変質させることです。

 現行の郵便貯金法の第一条には、貯金事業の目的を「簡易で確実な貯蓄の手段としてあまねく公平に利用させる」「国民の経済生活の安定を図り、その福祉を増進する」と定めています。

〇主眼は収益力〇

 民間銀行に民営化されればこの規定が廃止されます。そして、収益力の向上が経営の主眼になります。竹中平蔵郵政民営化担当相も「金融機関の健全な経営、安定的な運営」が第一義的な目的となり、地域でのサービス、国民の利便性の向上は「究極的」だとして、後回しになるとの考えを示しています。

 民間銀行はこの間、この「安定的な運営」に向け効率をあげようと、過疎地どころか都市部でも多くの支店を閉鎖してきました。郵政公社の民営化後の姿を物語っています。

 郵政民営化を小泉首相は、「資金を官から民に流す道を開く」と位置づけています。「資金が官から民に流れる」とはどういうことなのでしょうか。

 現在、郵貯・簡保は国民から三百四十兆円の金融資産を預かっています。既契約の資産は、独立行政法人として発足させる郵便貯金・簡易生命保険管理機構に分離して、「安全運用」をおこなうことになっています。

 一方、政府保証がなくなる新契約分は、「資金のより自由な運用」ができるようになります。つまり、「安全運用が宿命」の政府保証つき資金から「リスク(危険)をとれるお金に変わっていく」(竹中郵政民営化担当相)のです。

 リスクの高い金融商品が扱えることで喜ぶのは、民営化会社です。高い仲介手数料で収益をあげることができます。

〇リスク国民に〇

 たとえば、株式仲介で年間三百四十億円の手数料収益をあげると政府は試算しています。社会問題にもなった変額保険は百三十億円の収入。投資信託も六百三十億円を見込んでいます。運用先には日米の金融機関との提携も予想されます。

 一方、利用者は元本保証のない商品を売りつけられます。リスクは自己責任で、利用者に押し付けられます。

 「自由な運営」が広がれば利便性が高まり、郵貯銀行・郵保会社の規模は拡大してもいいはずです。ところが、政府はまったく逆の事態がおこるのだといいます。竹中郵政民営化担当相も「しかるべき規模に収斂(しゅうれん)する」と、規模縮小を予測しています。

 どうしてこんなことになるのでしょうか。貯蓄する国民はたとえ高い収益が見込めてもリスクの高い商品を望んでいないからです。

 金融広報中央委員会(日銀に事務局)のアンケート調査では、「安全性」(元本が保証され、金融機関が信用できる)を求める利用者が50%を超えています。これに対し、「収益性」(値上がり、利回りがいい)を求める人の割合は14%に過ぎません。

 郵政公社が民営化されれば、政府保証という金融機関にとって「競争上決定的に重要」な「信用」(竹中担当相)がなくなってしまうからです。「安全・安心」の切り捨てを国民は望んでいません。

 いったい、郵政公社の金融機能の縮小・廃止を求めているのはだれなのでしょう。郵貯・簡保は「商売の邪魔だ」、「もうけ口をよこせ」、そして「政府保証をなくせ」と繰り返し、縮小・廃止を求めているのが日米の大金融機関です。小泉首相の郵政民営化は、この声に応えているのです。

郵政民営化六法案

 (1)郵政民営化の基本的な理念や方針を定めた「郵政民営化法案」(2)郵便事業と郵便局業務を支援するための「日本郵政株式会社法案」(3)郵便業務及び印紙の売りさばきを定めた「郵便事業株式会社法案」(4)郵便窓口業務を定めた「郵便局株式会社法案」(5)公社から継承した資産を管理する「独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構法案」(6)関連法律の廃止や修正・整備のための「郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」。

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