2005年5月15日(日)「しんぶん赤旗」

速度制限型ATS

義務づけ通達を廃止

JR発足時に政府 事故防げず


 政府は一九八七年の国鉄分割民営化のさい、大手私鉄に速度制限型ATS(自動列車停止装置)の設置を義務づけていた通達を廃止し、民間会社となったJRへの適用を避けたため、古い国鉄型ATSが放置されてきたことがわかりました。ATSにかかわる大事故が三十年余ない大手私鉄なみに整備されていれば、今回のJR福知山線事故は防げた可能性があり、政府責任が問われます。


 通達は六七年に大手私鉄十六社にATSの設置を義務づけたもので、各社でほぼ七〇年までに整備されました。六六年に名鉄、京阪、近鉄などで相次いで発生した事故の反省によるもの。

 通達は「速度照査機構を備え、自動的に制動装置が動作する」など六項目を満たすATSの設置を求めています。速度制限型は、地上子(地上コイル)やレールからの信号電流で列車の速度をチェックし、スピードを自動制御します。

 「近年、大手民鉄で重大事故が皆無に近いのは、この賜物(たまもの)」などと、専門家は共通して私鉄型ATSを評価し、国土交通省や国の対応の遅れを警告していました。

 国土交通省鉄道局技術企画課によると、通達が廃止されたのは八七年三月。理由は「国鉄分割民営化にともなう鉄道事業法に吸収されたため」。しかし、同法や省令では速度制限型ATSの設置が義務づけられず、事業者まかせに。旧国鉄では一九六二年、常磐線三河島駅での衝突事故を教訓に導入した国鉄型ATSを六六年から全線で使用しています。

 ATSに詳しい鉄道技術者の水島哲生氏は「旧来の国鉄型ATSは、たんなる赤信号告知警報機です。警報の確認後の操作は運転士まかせで『自動列車停止装置』とはとても呼べない」と指摘。「私鉄型ATSの通達はその根本的欠陥を埋めるものでした。国は、ATSを民間基準に引き上げるのではなく、逆に優れた基準を示した通達を民営化で廃止した責任はきわめて重いと思います。旧来の国鉄型ATSを放置し、つづけざまに事故を発生させました」とのべています。

 実際、民営化後の八八年十二月の東中野駅追突事故、八九年四月飯田線北殿駅正面衝突事故、九七年十月特急スーパーあずさ衝突転覆事故などの大事故が起きています。

 私鉄型より優れたATS―PをJRで初めて導入したのは、八八年十二月開業のJR東日本京葉線。それから十六年余、JR西日本の整備率は駅付近だけの8%にすぎません。

 今回の事故が起きて初めて、同省はATS―Pの設置を取り上げています。


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