2011年10月27日(木)「しんぶん赤旗」

米国優先 こんなに

TPPの先行モデル 米韓FTAにみる“毒素”


 野田佳彦首相が参加に強い意欲を示す環太平洋連携協定(TPP)。米国が、その「先行モデル」と位置付けるのが、韓国との自由貿易協定(米韓FTA)です。韓国の市民団体などが、“毒素条項”と指摘する米韓FTAの内容を見てみると―。 (中村圭吾)


“有利な権利与えない”

米国法を移植

 “韓国の投資家は、投資の保護に関して、米国における米国投資家よりも実体的に有利な権利を与えられない”(序文)

 米韓FTAの序文には、米大統領に通商交渉の権限を与える「貿易促進権限法」の一文(米通商法2102条b項3号)がそのまま採用されています。この規定は、対外投資についての米国の「交渉目標」を定めた箇所で、その後には、送金の自由化、米国のルールに一致した「公正・衡平」な基準の設定などの目標が具体的に列挙されています。

 韓国側が、米国の国内法に記された通商交渉の理念を、一方的に受け入れたともとれる内容です。韓国の週刊誌『ハンギョレ21』(10月12日号)は、「米国の国内法がそのまま埋め込まれた。はたして、韓国は主権国家といえるのか」と批判しました。

投資企業が相手国提訴

投資家―国家間提訴権(ISD)

 “相手国政府の協定違反等により、投資家に損失が発生した場合、相手国裁判所に提訴するか、または国際仲裁機関への仲裁請求ができる”(第11章)

 米韓FTAに反対する市民団体などが「最も代表的な毒素条項」と指摘する制度です。

 世界最大のたばこメーカー、米フィリップモリス社は、たばこパッケージに厳格な規制を設ける豪州政府の措置に反発。香港に拠点を置く同社アジア法人が今年6月、香港・豪州間の投資協定に反するとして、多額の損害賠償を請求する方針を明らかにしました。こうしたことから、韓国の最大野党・民主党は、この制度が「公共政策遂行に深刻な問題をもたらしかねない」として、削除を求めています。

米企業進出制限を禁止

全分野に適用

 あらゆる分野をFTAの適用対象と規定。事前に付属目録に記載した例外事項(非合致措置)以外は、是正の対象となるネガティブ方式を採用(第12章)

 米国企業に対し、韓国企業と対等の待遇(内国民待遇)を約束。さらに、韓国が将来、別の国との間でより有利な条件となる協定を結べば、米国企業がその恩恵を受けられる「最恵国待遇」も認めています。

 また、韓国市場への米国企業の進出を制限する措置を設けることを禁止。サービスを提供する事業者数の制限や、企業の規模や形態による制限を設けることはできなくなります。さらに、韓国内に事務所を設置することや代表者が韓国に居住することを、義務付けることもできません。

一度自由化すれば

後戻りは不可

 “「非合致措置」は持続的に、速やかに更新・改定する。改定においては、直前に存在した措置の合致性を下げてはならない”(第12章)

 適用対象から除外された「非合致措置」は、留保事項として維持できますが、「速やかに」解消するよう定められています。また、一度自由化すれば、新たに制限を設けることや、さらに厳しくすることはできません。

 例えば、韓国にはテレビで放映される映画の25%を国産映画とする「放送クオーター」という制度がありますが、米韓FTAにより、この割合をさらに引き上げることはできなくなります。しかも、韓国政府は、米韓FTAの発効時には、その割合を20%に引き下げると発表しました。また、電気や水道など公営企業の外国人持分制限についても同様で、緩和することしかできなくなります。

合法保護まで提訴

非違反申し立て

 “協定に違反しない相手国の措置により、期待される利益が無効化、または侵害された場合、国家間紛争解決手続きに回付できる”(第22章)

 もともと、商品貿易を想定したGATT23条で設けられた規定ですが、米国は、他の分野への適用拡大を主張してきました。

 知的財産権に関する貿易について規定したTRIPS協定では、欧州連合(EU)が「範囲が不明確で、権利と義務のバランスを欠く」と批判。この規定の適用が猶予される期間を、いつまで続けるかについて議論がまとまりませんでした。

 米韓FTAでは、これを商品、農業、サービス、政府調達などに拡大しています。

 韓国政府は、米国市場に進出した韓国企業が、米国政府の補助金などで不利益を受けないためと説明しています。しかし、逆に、韓国側の補助金なども適用対象になります。

 野党や市民団体は、「多国籍企業が、合法的な保護措置まで問題にしかねない」として、削除を求めています。





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