2011年8月4日(木)「しんぶん赤旗」

中国高速列車事故

「人命軽視」問われる


 中国浙江省温州市で7月23日夜に起きた高速鉄道列車追突事故は、死者40人というその規模だけでなく、人命救助や安全確保への当局の対応に、内外から驚きと批判が集中しました。遺族や国民からは今もなお、事故隠しや高速鉄道の安全性の欠如を問う厳しい声があがっています。(北京=小寺松雄)

当局の対応に批判

 マスコミやインターネットの報道を通じて、当局の対応は人命の軽視だとの厳しい批判が中国国内でわき起こりました。

 地元政府は事故後半日で「生存者はいない」と早々に救助活動を打ち切りましたが、その12時間後に2歳の女児が発見・救助されました。

 事故原因はまったく不明な中で、事故翌日には犠牲者への補償金として50万元(約600万円)が提示されました。補償早期受け入れの上乗せ分が含まれた額だといわれ、多くの遺族から不満の声が上がりました。

 安全確保のための原因究明をないがしろにする対応にも不信が募っています。

 追突した先頭車両をショベルカーで破壊し、穴に埋めるという当局のやり方に、「証拠隠滅」だとの非難が集中し、事故1日半後という運行の早期再開に対しても、安全無視と強い批判が出ています。(車両は26日になって掘り出され、保管場所に移されました)

温首相が究明を約束

 2歳の女児救出のニュースを伝える国営の中央テレビで、女性アナウンサーは、涙を流しながら、鉄道省の反省と十分な調査を促しました。国営メディアとしては異例のこのコメントは、いま中国社会でこの事件がどのように受け止められているかを象徴する一コマです。

 中国当局は事故後2度にわたってメディアに「否定面の報道を控えるよう」指示を出したといわれます。しかし、中国の一部メディアはなお、駅責任者の告発を掲載するなど抵抗する姿勢を見せています。

 こうしたなか、温家宝首相は28日現地入りし、遺族を訪問し、負傷者を見舞い、事故現場に内外記者を集めて異例の記者会見をおこないました。温首相は、事故への対応や原因究明について国民が「多くの疑問」をもっていると認めました。そして「事故調査・処理の全過程を公開・透明にし、社会と大衆の監督をうける」「腐敗問題があれば決して容赦はしない」と言明。「安全が最優先」との原則を明らかにしました。

「公開・透明」貫けるか

 犠牲者の遺族は、「高速鉄道の不安が現実になった」「事故隠しは許せない」と27日には温州南駅で横断幕を掲げて行政の対応に抗議しました。

 首相が約束した「公開・透明」原則が貫徹できるかどうかが問われています。

 後続列車の運転士は死亡しましたが、ブラックボックス(運行記録装置)は回収されています。

 9月にも政府の調査チームの結果が発表されます。遺族と国民の関心にどう向きあい、原因究明と再発防止の措置をとるのか、国内はもとより海外からも注目されています。

鉄道省の腐敗も

 事故についての国民や遺族の不満が収まらない背景には、今年2月に「規律違反で解任」された劉志軍鉄道相をはじめとする鉄道省の腐敗問題があります。2003年から鉄道相を務めてきた劉氏は、関係業者から10億元(約120億円)以上の賄賂を受け取ったとされます。

 劉氏は高速鉄道推進の先頭に立ち、北京―上海間高速鉄道を「2年半の工期で10年秋に完成させた」当事者でした。

 解任後、ネットでは「賄賂の分だけ、安全にかける経費が削られたのではないか」「速いだけの鉄道でいいのか」などの批判が一気に噴出しました。

 後任の盛鉄道相は、6月末の開業に当たって、最高時速を当初計画の350キロから300キロに下げる措置をとっています。

 しかしその北京―上海の高速鉄道も開業後の1カ月で、停電による運休や大幅遅れ事故が10回近く起こっています。「高速鉄道は大丈夫か」そんな不安が高まる中での今回の大事故でした。


事故の概要

40人死亡、190人以上が負傷

 7月23日午後8時50分、温州南駅北4キロの地点で、杭州発福州南行きD3115列車に、北京南発福州行きD301列車が追突、301列車前部の4両が高架下へ転落、同列車の運転士・乗客40人が死亡、190人以上が負傷しました。

 ダイヤでは追突した列車が先に通過しているはずでした。中国メディアによると、事故の35分前、両列車は途中駅の隣のホームに並んで停車。しかし本来後になるはずの3115列車が先に出発してしまいました。この詳しい経過もまだ不明です。

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