2011年7月17日(日)「しんぶん赤旗」

放送局の地デジ化巨額投資

制作費や人件費を圧迫

ツケは質の低下で視聴者に


 24日のアナログいっせい停波により、数百万単位の世帯でテレビが見られなくなると心配されています。一方で、各放送局が地上デジタル放送(地デジ)化に巨額投資をし、結果として制作費減などで視聴者にツケが回るとの指摘もあります。


 デジタル化には、伝送路と局内設備の両面があり、放送局に巨額の設備投資を強いてきました。民放全127社で2011年まで総額1兆440億円と見込まれます。

 デジタル化を先導した巨大局・NHKは地デジ化の施設整備に4000億円(01〜13年)を見込んでいます。

NHKは…

 約1600人(01〜09年)を削減しても、赤字(予算)は09年度29億円、10年度61億円にもなります。10年度の赤字の理由を「円滑な完全デジタル化に向けた対策のための経費を計上する結果」と説明します。

 そのNHKについて岩波新書『NHK』の著書で知られる松田浩・元立命館大学教授は「地上波でも衛星でもデジタルの再放送番組がやたら氾濫している現状は目に余るものがある」と話します。

 デジタル化は視聴者に対応受信機(地域によってアンテナ等も変更)の購入などの経費負担を招き、高齢者や低所得者など社会的弱者は対応できないまま、24日を迎えようとしています。

 弱者ほどデジタル化の負担が大きい、という日本の視聴者の構図は、そのまま放送局にも当てはまります。民放はフジテレビのような五大キー局から準キー局、系列地方局、独立局があります。

 独立局の一つ、京都放送は製作設備と送信設備に計30億円をデジタル化に充てています。再建中だった京都放送の資本金は約34億円。もう一つの京都放送ができるほどの巨額さです。

 「地デジ化のこのツケは結局、番組の質的低下として視聴者にかかってくる」と指摘するのは立教大学の砂川浩慶准教授(メディア社会学)です。「広告不況などに加え、地デジ化で番組制作費や人件費が圧迫されているのは明らか。これで視聴者が望む質のいい番組が作れるわけがありません」と心配します。

費用2割削減

 そんな放送現場の実情を準キー局のテレビ制作者が語っています。

 「数年前から制作費が2割削減され、ディレクターが1人でデジカメを抱えて取材に行くことも珍しくなくなった」というのは30代のディレクターです。

 「情報番組というよりクイズやお笑い番組が増え、『探訪』『調査』などと名前は格好いいが、営業が喜ぶような、要は企業宣伝のような番組も増えました」と話します。

 「これまでセット1本に500万円かけられたが300万円になった」と嘆くのは40代の美術現場で働く男性。「番組で衣装発注をと思ってもお金がかかるからやめとこうとなり、でもやはり衣装くらいはお金をかけようとなって制作費減が現場を混乱させている」と言います。

 24日に予定通り停波すれば視聴者が減り、受信料・広告料も減ります。地デジ化推進は放送局自身が自分の首を絞めることになっています。(小林信治)





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